コンコン

鳴狐から教えてもらった指で作る狐。そういえばこの本丸にはもう一体狐がいると、ふと思い出し、その狐がいつもいる縁側へと訪れると、やはりそこには狐がいた。

まるで、狐の耳の形の様にはねた髪と柔らかい風に揺らぐ長い髪。一体、どこに小という文字が当てはまるのだか不思議で仕方がない程に背筋の伸びたブレのない大きな背中。その姿を目に捉えた瞬間、背中に抱き着きたいという衝動が心の底から溢れてきた。

溢れてしまったのならもう止めようがない。私の体は素直に行動に移してしまう。

「コンコン。」

その大きな背に抱き着き小狐丸の肩から腕を伸ばし狐を見せる。突然の私の行動に一瞬驚きを見せたが、すぐに顔を和らげ小さく笑い、私にその顔を向ける小狐丸。

「プリンセス、それは狐ですね。」

小狐丸のこの情緒の激しい揺れのない落ち着いた口調が耳に聞き心地良く入ってくる。

「そうよ。鳴狐から教えてもらいました。…それでこの本丸にはもう一人狐がいたなあって思って。」

「それが、私ですか。」

うんうんと頷きながら、目を閉じ嗅覚を研ぎ澄まして小狐丸の首元に顔を埋めた。やはりこの方の匂いは私にとって麻薬かもしれない、非常に落ち着く。

少々くすぐったいという様に私の頭にぽんぽんと軽くはねる小狐丸のくせに大きな手のひら。ふと私はある事を思い出し、ハッと顔をあげた。不思議そうに目を丸くして私を見つめる小狐丸。

「主様から出陣命令が下されました」

「ん、拝命いたします」

改まった様な真剣な眼差しでそう告げると、小狐丸も、丸くした目をキリッと鋭角なものに変え、瞳を閉じ、まるで心の底から承るかの様に頭を軽く下げた。

この様な規律正しい小狐丸の姿に私の心は高鳴ってしまう。そしてなぜ主様が、小狐丸を隊長に任命したのか、その理由もよくわかった。

「小狐丸…隊長」

「そう呼ばれるのはいつ振りか」

一瞬、顔をハッとさせ、瞳を閉じ、口元を微かに緩め笑む小狐丸。
最後にそう呼んだのはいつだったか。決して、敬意を示さなくなったのではないぞと苦笑いを浮かべ、そしてひゅるりと小狐丸の背に預けた体を離し、大きな背に額を寄せた。

「私は、隊長が小狐丸様で良かった。…あなたのこの大きな背中に守られて、且つ守りながらご一緒に戦えることを嬉しく思います。」

私の言葉になにも発しない小狐丸。しかし私の心は十分に満たされていた。なぜなら、床に置かれた私の手に、小狐丸のそれは大きく温かい手が重なったからだ。