襖の奥から


深く息を吸って、吐く。これから始める事に緊張した身体をほぐす為に。そして審神者服の複雑な装飾を1つ1つと躊躇うように外していく。最後に、腰に回る帯を解き、着物がスラリと肩から落ちた。意を消して、一歩足を前に。

「‥‥いやぁ!嘘でしょ!?冗談でしょ!?‥増えてる‥」

足元の画面に映し出された自分の体重に私は信じられない、と愕然とする。しかし回顧してみると、この数字になる原因が浮かんで来て当て付けのない怒りが込み上げてきた。

ここのところ新しい刀剣男士が、日にちを開けることなく朝、晩ともにこの本丸に来たおかげで毎日の様に歓迎会が開かれていた。ついご飯が美味しくて、お酒が美味しくて。

「はあ‥わかってます‥わかってます、自分がいけないです‥」

ポツリポツリと自分を責める様に言葉を吐いていたら何だろう段々悲しくなってきた。

ー ー ー ー

朝食の時間になっても中々下に顔を出さない主。いつもだったら待ってましたと言わんばかりの勢いで来る。

燭台切は、何か主の身に危険があったのでは無いかと良からぬことが頭に過ぎり、主部屋へと駆け出した。

「なんだろう、この声。」

主部屋の前に着けば、不思議な音が聞こえて来る。啜り泣きの様だった。
こういう時、偶然居合わせてしまった自分は何をするべきか。燭台切は襖の前で開けるか開けないか悩み続ける。

「‥プリンセス?おはよう、朝ごはん出来たよ‥?」

恐る恐る声をかける燭台切。すると更に燭台切の言葉をかき消すように嗚咽まで襖を超えて耳に入る。これは、いよいよ大変だっ、と燭台切は焦る気持ちで襖を開いた。

「プリンセス!何かあったのかい!」
「え!いやっ!見ないで!なんで開けるの!」

突然開かれた襖、プリンセスはバッと顔をそちらに向け瞬時にしゃがみ込んだ。
そして燭台切は、上下下着だけのプリンセスの姿を確実に目に捉えたしまった。

「ごめんね‥!そうゆうつもりじゃなかったんだよ!」

珍しく口早に、慌てふためき瞳をキョロキョロと泳がせる燭台切。

「もう、良いから‥閉めて‥外で待ってて。」

視線を燭台切にちらちらと向けポツリ言葉を零すプリンセス。その顔は、少し恥じらいを感じている様で頬が赤く染まっていた。

「わかった、待ってるよ」

ごめんね、と最後に付け加え燭台切は申し訳無く思いながら眉を下げ早々と襖を閉めた。背中越しに閉めた襖。燭台切は悔恨の情がこもった様なため息をついた。

しばらくして、襖が静かに開かれ、燭台切の前に俯き気味にプリンセスが現われる。

「‥私‥太ったかな‥?」

躊躇するように、もじもじと言葉を溢すプリンセス。
燭台切は、先程のプリンセスの足元に置いてあった体重計、啜り泣き声から全てを悟り普段から薄弱な姿など決して見せないプリンセスの今の姿に愛らしく思い口元がゆるむ。そして燭台切は、不安げに胸の所で両手を握りプリンセスのその手をそっと包み込んだ。突然の事に肩を揺らし顔を上げ、燭台切の瞳を見つめる。

「そんな事ないよ。僕は、僕の作った料理を美味しく食べてくれるプリンセスが大好きだよ?」

燭台切の言葉が嬉しくてパッと顔を輝かせるプリンセス。しかしそれはすぐに曇ってしまった。燭台切の優しい言葉に甘えてはいけない、と唇を噛みしめるプリンセス。すると燭台切は、プリンセスの手を包む手の力を強めた。

「それでも、もし、プリンセスが気にしているなら僕も協力して、なるべくヘルシーな料理を作るよ!」
「…ありがとう燭台切ぃ」

ニコッと太陽の様な笑むを浮かべる燭台切にプリンセスは瞳を揺るがせ、涙を流した。そんなプリンセスが可愛らしく思えて燭台切は、よしよし、とプリンセスの頭を撫でた。