どうして


「…鶴丸国永、離しなさい。」

身体が震えてる気がする。でも、それを抑えるように力を込めてなるべく冷たく、強く私は、今私の事を抱きしめている鶴丸に告げる。

すると、さらに私を包み込む腕が力を増した気がした。さらに、彼の胸に私が入り込む。

「嫌だ…って、言ったら?」

悪戯っぽく笑いながら言う彼に、私は深く息を吐いた。呆れるように、いや実は緊張する体をほぐす為だったり。

「これは、許される事ではありません。」
「なぜ。」
「何故って…私は人間、貴方は刀。」
「今は、俺も人間だけどな」

はぁ、らちが明かない。もう一度、呆れたように溜息をつけば、鶴丸は私の髪に顔を埋めた。絶対に離すまいと言うように。

「どうして、分かってくれないの」

私だって、辛いの。こんなにも抱きしめられるだけで緊張してしまうけど嬉しい。気持ちは溢れそうなのに、割り切らなければならない事が辛いの。

「俺は、絶対に分かりたくない」
「…どうして…」

ついに、言葉を発する唇が震える。どこからそんな華奢な肢体から力を出してるんだ、と思うほどにまた強く抱きしめられる。

「主、俺にはあんたが強がってる様に見える…」

鶴丸の言葉に私は、ハッと胸が痛むのを感じた。情けなく思えてきて視界が潤む。

「…そんな事…ない…」
「嘘だ。」

本当に、どうしてこんなにも頑固なのだろう。こうして素直な気持ちを表せる鶴丸に対して背を向ける自分が悔しくて鶴丸の服に皺をつくる。

「…鶴丸国永…本当に、いい加減にして…」

瞳を閉じれば、涙が零れ落ちた。もう身体も震えている。

すると突然、鶴丸は私を抱きしめる腕を離し、私の肩に手を添えた。

泣いてる姿など見られてはならない、と手で目元を拭う仕草をして俯く。しかし何故だか、鶴丸の手がそれを阻止して私の顔を切ない表情で見てくる。

「主…じゃあ、なぜ泣くんだよ」

私の瞳から流れる涙をすくう鶴丸。言葉を発する事が出来なくて首を左右に振る。

「俺は、受け入れて貰えなくても主に対する気持ちは変わらない」

ハッと鶴丸の瞳を見れば、その目は真っ直ぐに私を見ていて心にまで伝ってくる。

「俺は、プリンセスが好きだ。」

言葉と共に鶴丸は、私の唇をなぞる。ゾクゾクと全身が強張った。

次第に近づく鶴丸の端正な顔。
そして鶴丸の唇が私の唇に触れる寸前で止まる。
私は瞳を閉じ、鶴丸を受け入れた。