遭逢


「名前は、なぜこの仕事をしようと思ったのですか?」

ふと、事後を終え布団に寝転ぶ宗三左文字が背を向け肌着を身につける私の髪に触れ問いかけてきた。別にその事について話すのはタブーでは無いが言葉が喉に詰まる。しかし宗三左文字は黙って私の返事を待つのみだった。

「まず、この仕事はね、政府に対して自分から志願する事も出来るの。」

そこまで言い、振り向くと枕元に腕を伸ばしそこに片頬を預け私を見上げる宗三左文字が目に映る。

「後、政府が日本にいる戸籍が女性である人をランダムに抽選するの。」
「…名前は、どちらだったのですか?」

宗三左文字の言葉に、聞かれるとは思っていたが心の準備がまだ出来ておらず直ぐには返事が出来なかった。夜空に浮かぶ月を見上げる。

「私は、後者の方よ。…抽選で見事に大当たり…ってね。」

茶化す様に言えば、何だが強がっている様な、無理矢理な感じがして情けなくなる。

「それを断る事は?」

さらに掘り下げて来る宗三左文字。嫌な気はしなかった。私の事に興味を持ってくれている気がしたから。

「勿論。任意だからね。嫌だって言えばまた抽選がやり直しになるだけ」
「何故、名前は断らなかったのですか?」

その疑問も来ると思いましたよ、と少し呆れた様に追求心の塊、宗三左文字に目を向ける。すると、先程は重力のままに頭を預けていたのに今は重力に逆らい頭を上げ私を見つめている。

「うーん、そうだね。断ろうとは思わなかった。…あっちで普通に仕事をしているよりも多くのお金を貰えるからね」

やはり身体を使っている分、政府からはそれなりの報酬を貰っている。でも、それだけじゃ無い。

「後ね、一つ、理由があるの。」

一度視線を下げ、そう言葉を零せば、教えてくれと言う様に私の手にしなやかな細い指先が絡ませられる。

「貴方に、会いたかった。」

溢れんばかりの笑みを浮かべ見つめられば、珍しく呆気にとられたような表情を浮かべる宗三左文字。私はクスクスと笑いながら続ける。

「半分嘘で、半分本当。」

そう言えば、美形な顔立ちの眉にシワが寄った。私は続ける。

「小さい時に、京都に家族で行ったの。その時にある神社に行って、生まれて初めて刀を見たのよ。」

懐かしむように穏やかな笑みを浮かべ、私の手に絡む宗三左文字の指に触れる。

「その時に感じた気持ちが凄くて、大人になるまでずっと残ってたの。」

チラッと宗三左文字に目を向ければ、とても興味津々に聞いてくれている。

「そして、ここに勤めて、初めて貴方に会った時、あの時に感じた気持ちが湧き上がったの。」

自然と感極まってしまい発する言葉が震える。すると、宗三左文字が寝転んでいた布団から身体を起こし、ふわりと私を包み込み、髪やら額やら耳を順に確かめるように唇を寄せる。

「宗三左文字、くすぐったい…」

目を細め抵抗すれば、それを阻止する様により強く抱きしめられる。

「僕も名前に会った時、刀の時は分からなかった。でも、ここで会った時には直ぐにこの子だって思いましたよ。」

信じられないと言う様にハッと目を見開いた。しかし、その言葉が嬉しくて笑みをこぼす。そして宗三左文字の背に自身の腕を回した。

「なんだ、お互い同じ気持ちだったのね」
「その様ですね。」

そして二人で笑い合った。
世間では、ここに勤める事に、運が悪い、厄年、バチが当たったのだろう、政府からの仕打ちだ、と言われている。
しかし、それでも私はここで勤めている事が幸せで堪らない。貴方に会うことが出来たから。