準備完了


「‥ルフィ‥」

princessが重い瞼を開け最初に目に入ったのは向かいの席で眠るルフィだった。その体は至る所を包帯で巻かれていてprincessは少し泣きそうになり眉をひそめた。

ふと蘇る火砕流を止めた瞬間。もしあの時、水だけだったらあのまま留めておけるほどの体力が残っていなかった。だからもしあれが凍らなければ、そのまま水は流れ第二災害を招いていたかもしれない。

「クザンだ‥あの人のお陰だ‥」

震える声で言葉を零しprincessは腕で目を覆った。



どんよりと湿気が多く雨が降り注ぐ中、なんとも言えない悔しげな表情で海を見るルフィ。そんなルフィに麦わら一味は囲う様に佇んでいた。

「お前らァ、いつまでこんな所でちんたらしてるの」

ナミは自身の後ろから聞こえた声に驚きの声を上げ、下がる。ナミ、ルフィ、ゾロ、サンジ以外の麦わら一味もその人物の登場に声を上げた。しかしそれ以上にprincessは、その懐かしい姿に驚愕し漠然する。

「なんで、青キジがぁ〜!?」
「大丈夫‥俺たちさっき会ってんだ。」

チョッパーが声を上げると、落ち着いた様子でルフィはクザンに体を向け、目を凝らす。

そしてクザンは語った。ゼットという男の目的、ダイナ岩、エンドポイントの存在、その威力。

「ゼットは憎んでる、自分の身を滅ぼしても構わないくらいにな。」
「関係ねェ!俺は帽子を取り返しにいく。あいつとケリをつけにいく。」
「おおい正気かルフィ‥新世界が吹き飛ぶんだぞ」
「シャンクスと約束したんだ。立派な海賊王になって帽子を返しにいくって」

真っ直ぐ、帽子だけの事を見つめるルフィにもうウソップが止める言葉など聞くはずもない。それを理解してる一味はルフィの判断に従うのみだった。

1人1人、船の方へ立ち去る中、最後にprincessがその場に残り去っていく仲間たちの後ろ姿を見つめ、笑みが零れる。空は知ら何うちに晴れていて傘を閉じ空を見上げる。ふとクザンの方へ目を向け、久しぶりに見るその姿に少し泣きそうになるも、それを堪え笑みを浮かべる。

princessに近づくクザン。

「二年ぶり‥?久しぶりね‥」
「ああ‥そうだな。」
「クザンが、海軍を辞めたって知った時驚いたわ」

2人並んで歩くのは久しぶりだった。やはり昔の癖で、一歩後ろに下がり歩いてしまうprincess。

「誰よりも近くで見てきたからわかってた。だらけた正義を表向きは掲げてても、誰よりも、正義の心がある事を私は知ってた。」

ちらりとクザンに目を向けるprincess。その顔は、やはり何処か淋しげだった。

「‥princess、お前は今も昔も幸せか?」
「‥‥うん、幸せだったよ。クザンと過ごした海軍時代は、凄く、幸せだった。でも、今も凄く幸せ。仲間に出会えて、ああやって笑いあって、凄く幸せ。」

みんなで囲い、笑いを交わし合う一味の姿を見て微笑むprincess。

「そりゃ、良かった。princessが、幸せなら、それで良かった。」
「‥‥!クザン‥」

その言葉にprincessは涙が溢れそうになった。そんなprincessにふっ、と笑みを零しクザンは、麦わら一味の前に最後の島に向かうためのエターナルポースを差し出した。

「エンドポイントを2つ壊されて海軍も本気を出してくる。‥どうなろうと俺は最後まで見届けさせて貰うぜ。」

そしてクザンは立ち去った。

「ナミ達を元に戻すだけのつもりが新世界の未来がかかった戦いになるとは、てめェら、最強装備のことを覚えてるかい」

全ての状況を把握したフランキーが、少し怪しげに口にする。

そして訪れたドック。そこにはモブストンが、かつて海賊達が残した装備品などが置かれていた。

「ゼット達にやられた海賊達の思いも連れてゼットの元へ乗り込もうぜェ!」

フランキーの言葉に声を上げる一同。そして麦わら一味はそれぞれ装備する。赤く情熱的な色合いで、その後ろ姿はたくましく、格好が良かった。皆が船に乗ろうとした時、

「にぃちゃん達〜!!!」

ガリが声を上げてその背に呼びかける。その声に振り返る一味。

「オレ、おっきくなったらヒーローになりたいんだよ〜!海軍大将と海賊王、どっちが良いかな!」
「海賊はヒーローじゃねェぞ」
「ええ、そうなの!」
「お前には、どっちも同じなのか」
「そおだよ、かっこいいじゃん!」

ルフィの言葉に驚くガリだったがサンジからの問いかけにはキラキラと目を輝かせそう答えた。その姿に笑みを浮かべ歩き出す一味。それを漠然と突っ伏し見上げるガリ。

「ガリ!好きにやるのが1番だ」

ルフィは歯を見せ大きく笑い、拳を上げた。その姿に、見惚れるガリ。

「ガリくん!私は、海軍も海賊もどちらもヒーローだと思うよ!」

脳裏に浮かぶ、princessに影響を与えた人物達。笑みを浮かべprincessも歩き出した。ガリはその後ろ姿に、瞳をキラキラと輝かせ麦わら一味を見送った。