拳と拳


「ルフィ‥!」

princessが、頂上に到着した時には既にもう、ルフィとゼットは死闘を繰り広げていた。

「princess」
「‥‥!ゾロ!サンジ!」

princessの後に続く様に、やってきたゾロとサンジ。その風貌を見る限りどうやら、アインとビンズを打ち破った様だ。二人は、ただ黙ってルフィとゼットの一対一の闘いを目視する。

「ルフィ‥」

冷や汗とともに、不安げな表情で微かな声でその名を呼ぶ。そして、ようやくナミ、ウソップ、チョッパー、ブルック、ロビン、フランキーが到着し、麦わら一味は集結した。

「小僧、何故こうまでして俺にぶつかってくる」

歯を食いしばりながら拳を振るうルフィにゼットが問う。

「俺は、俺のやりたい様にやる!」

ルフィの拳で、ゼットの剛腕の一部がへこむ。そして、ついにその剛腕が、音を立てて一部一部崩れていき、破壊力された。その様子に一同、驚愕。

「やりたい様にやるか、ならば、俺もそうしよう!かかってこい!これが最後だァ!!!」

そして、ルフィとゼット、拳と拳のぶつかり合いが始まる。

「これが‥黒腕のゼファ‥‥」

次々とゼットの拳に押しやられるルフィ。princessはその姿に言葉が溢れる
。その姿に、やはり元大将なだけあって1つ1つの拳に、とてつもない雄偉を感じたからである。しかし、ルフィも負けていない。ゼットへと拳を振るう。

お互いの拳が痛々しく重い音を立ててぶつかり合う。ふと、ゼットが口元を歪め笑みを浮かべた。

「俺は、俺はやるんだ!海賊王に俺はなる!!!」
「俺の名は、ゼットだァ!!!」

お互い拳と共に声を張り上げ、それをぶつける。ついに、ルフィが膝から落ちる。しかしその拳はゼットの腹を突いていた。声をさらに張り上げルフィ、ゆっくり一歩、一歩と後ろに下がり倒れたのはゼットだった。
そして、ルフィは立ち上がった。
仰向けに倒れるゼファ。

「楽しい時間はすぐに終わってしまう」

息を吐きながらゼットがルフィを目に捉え口にする。ルフィの勝利に安堵の声をあげる一味。

「ルフィ!」

princessは、微かに瞳に涙を浮かべ、高鳴る気持ちと共に声をあげる。

「良かった‥」

そして、一歩一歩、ルフィは麦わら帽子に近づく。

「帽子と、俺の命を持ってけ!」

声をあげるゼット。

「お前の命なんていらねェ、もう気すんだ!」

ルフィは、麦わら帽子をかぶり、ゼットに笑みを浮かべた。

「まだ、やるならつきあうぞ」
「‥いや、俺も気が済んだ。」

そのゼットの言葉で拳のぶつかり合いが幕を閉じた。

「ルフィ!」

嬉しそうに抱き着くチョッパーに、続いて涙ぐみながらprincessも抱き着くと、体がよろけるルフィをウソップが心配そうに肩を貸し、支える。

「みんな!」

ウソップに支えられながら、ルフィの元へやって来た一味全員に笑みを浮かべ声をかけるルフィ。ナミはどこか呆れたように声をあげる。

その姿をしみじみとした心持ちで眺めるゼット。そして、そんなゼットに涙ぐみアインとビンズ。

「ゼット先生!」
「アイン、ビンズ、お前達には苦労をかけたのに、すまない。」

「無事なだけで良かったです」と涙を流しゼットの元へ一歩前に出るアインだった。

「役者は揃っているみたいだねェ」

突然上から響き渡る声。ルフィ達はその声のする方に目を向ける。

「黄猿!」

そこには、海軍大将、黄猿が佇んでいた。

「麦わらも、ゼファ先生も死にかけなのが残念だけど、どうせみんな死ぬんだから一緒だよねェ」

淡々と口にする黄猿。

「ぞろぞろと引き連れて来たか。」

一歩一歩と、前に出るゼット。その姿にルフィは小さく言葉が溢れる。
口にパイプタバコを咥えるゼット。

「俺は、最後の最後にやりたい様にやれた。好きにやった落とし前はつけなきゃな。先に行ったやつに顔向け出来ねェ」

多くの海兵が構える前に、同じ様に身構えるゼット。どこか堂々ったる強い眼差しをしていた。

「麦わらのルフィ。お前にはお前の冒険があるのだろう。」

サングラスをかけ、戦闘態勢をとるゼット。

「ここは、このゼットに任せてもらう。」
「おっさん!」

ゼットの言葉に声をあげるルフィ。

「先生!」

良からぬ言葉にアインは、その名を呼びゼットの元へ引き止める様に走り出す。

「ダメです!先生!」

すると、重い音と共に地が揺れ氷の壁がそびえ立った。予想外の出来事に、麦わら一同、黄猿さえも、ただその壁を見上げる。

「クザンめ、最後に俺の死に場所を作ってくれたのか。」

氷の壁を、創り上げたクザンは、その姿を上から見下ろす、そして立ち去る。

氷の壁を叩き、声をあげるアイン。ビンズも肩を下ろし、悔しげに俯く。
ただ壁の奥にいるゼットを思い、驚嘆に値するその行動に漠然とする麦わら一味。

ダイナ岩は、氷で覆われ、その性能は抑制される。

そしてゼットは、黒腕を振るい、海軍を押しやる。その威力は偉大で、過去にゼットに教養受けた者達はその姿に目を張る。

「八尺瓊勾玉」

そんなゼットの姿に屈することなく技を繰り出す黄猿。

「ボルサリーノ!!」

どこか、嬉しそうに声を揚げるゼット。その姿は、まるで自身の教え子に目を輝かせる師の様だった。

「さよなら、ゼファ先生!」

言葉と共に放たれる幾多もの鋭い光の玉。それは、容赦無くゼットに撃ち当たる。それでも決して倒れないゼット。

血を吐き、氷の壁に背を預けるその姿に、涙を浮かべる者も。皆、恩師の赫々たる雄偉な姿に目を張る。

「お前達には、最後の稽古をつけてやる」

氷の壁に指を立て、力を込め、声を揚げるゼット。


その頃、麦わら一味は、船に乗り既に島を出港していた。島を出る船からゼットを思い、ピリオ島を見つめる麦わら一味。その目は、まるで、ゼットに敬意を払う様な強い眼差しをしていた。
princessも、ゼットのあの勇猛な姿に強い眼差しを向けていた。その目は微かにそのゼットの威圧か潤んでいた。


海は見ている。世界の始まりも。
海は知っている。世界の終わりも。

ふと、過ぎる昔の記憶。いつも、追っていた「正義」という文字を背負ったその後ろ姿。それは、手が届きそうで届かない。

恐れてはいけない。あなたがいるから。


ークザン、私はこの歌が嫌い。

‥ああ、俺も嫌いだ、princess。ー

海軍総員、弔いの場で、腕に幼い少女を抱き、「正義」の文字を背負うその後ろ姿。


princessは、閉じていた瞼を上げた。


怯えてはいけない。仲間もまつから。

進まねばならない。

蒼きその先へ




film z 完