檻の外から


はあ、と魂が抜けてしまうぐらいの大きな溜息をつく。お腹も空いたし、体も冷える。重い鎖が回された腕で、脚を引き寄せ自身を包み込み、何本もの黒い柱の檻の中から賑わう街を見る。

その街の賑わいが自分の気持ちとは対照的過ぎて顔を埋める。

「‥おい。」

檻の外から、粗暴な口調の男の声が聞こえてくる。どうせ冷やかしだろう、そう思い顔を上げず無視をする。

「おい。お前だよ。」

先程よりも近くに男の声を感じ、「もしかして自分か」と思い、恐る恐る男の顔を盗み見る。目に映ったのは、刺激の強すぎる赤い髪に、真っ赤な大きな口、インパクトの強すぎるルックス、如何にも海賊じゃないか。と「厄介なのに絡まれた」と身体ごとそっぽに向く。

「こっち向けよ。」

そう言って、手を伸ばし私の顎を掴んで無理やり自分の方に向ける男の行動に恐怖も感じつつ少しイラっときた。

「‥こんにちは。赤髪のお兄さん。‥何?」

私の顎を抑える手を、なるべく強く、爪を立て、掴み返し辛辣な口調で問う。するとニヤリとその大きな口を弧を描くように上げ、喉を鳴らして笑う赤髪の男。
何、怖いんだけど。

「お前、売られたのか?」

直球で言うわね。少しの間黙ってから、彼の腕に立てた爪を和らげ、その腕を解放する。じゃらりと鎖の音が鳴る。

「‥そうよ。幼い頃に家族が死んで、運が良かったのか、何かとここまで1人で生きてきた。でも、人攫いに襲われて、見事にこの有り様よ。」

淡々と自分の人生を語った。何故か私が一方的に話してるだけなのに黙って聞いてくれている赤髪の男。この男に言っても何も意味ないけど。

「神様も、もう手放してもいいと思ったのかな」

何だろう、どんどん言葉が溢れてくる。

「はあ‥‥とても退屈な人生だった‥」

最後に、少し笑みを浮かべ、全てを言い切るかの様に呟く。不思議と涙が流れてきた。男は何も言わない。他人の悲劇を聞くだけ聞いただけ?まあ、それでも良い。誰かに、最後にこうやって感情的に涙も流せたし。私が感情を失う(死ぬ)前に‥ああ、良かった。そう勝手に浸っていると男は何も言わず黙って立ち上がる。そう、それが当たり前。早く行って。

「‥オレがお前の事買ってやるよ」

「‥え」

赤髪の男の言葉が一瞬理解が出来ず小さく言葉が溢れる。男の方を見上げる。その顔は太陽の光による逆光でよく見えなかったが、その男を凄く大きく感じた。

「後のお前の人生、楽しくしてやるよ」

口を大きく弧の字に広げる赤髪の男。

「死ぬなよ、待ってろ」

そう言ってあたしに背を向け歩きながら軽く手を振り歩き出す。
信じられないとその後ろ姿を眺める、けど少しだけ自分の中の何かが彼に期待している気がした。

「待って!貴方の名前は‥?」

じゃらりと鳴る鎖に繋がる腕を上げ、鉄の檻を掴み精一杯声を上げる。すると赤髪の男は顔だけを此方に向け、ニヤリと口元を歪める。

「キッドだ。キャプテン・キッド。」

「‥‥キッド。」

それだけ言うとキッドは前を向き歩き出した。ポツリとその名を口にすると、何故だか生きる気力が湧いてきた。キッド。貴方の言葉を信じて私は待つわ。