私の処に来て


「あら…久しぶりね。」


玄関のドアが3回程コンコンコンと鳴りドアを開けてみたら、そこに懐かしい顔があり私はただ唖然とした。
そしてその彼クザンも、ああと一つ言葉を零し黙っている。

「中入る…?」


沈黙が続きどうしようもなかったので取り敢えず家に入ってもらう。

そして彼は、またもああと一つ言葉を零し私の横を通り過ぎ家の中へ入った。

変わらない彼の匂い。

クザンがこの家にいた頃から変わらない家具の配置。そして彼は自分が良く座っていたソファの左側へ腰を下ろした。
私はそれを横目で見てキッチンへ飲み物を取りに行きクザンの座るソファの前にある机にお茶の入ったコップを置いた。


「ああ…すまねェ」

何よ今更と、笑みを浮かべクザンの隣へ腰を下ろす。

「どうしたの?いきなり来るなんて」

コップを口に当てお茶を飲むクザンに顔を向け問いかけてみる。するとクザンはお茶を飲むのを止めコップを机に置いた。

「もう此処には来れねェ気がしてな‥」


私に目を向け悲しそうな笑みを浮かべて彼はそう口にした。

「何…言ってるの…?」

私は珍しい彼の表情と言葉が信じられず問いただした。すると彼は淡々と語り出した。

元帥センゴクが辞め、次の元帥を決める為その候補であるクザンともう一人の大将赤犬が戦うと言う事を。
私は、その間無意識に彼の手に自分の手を添えていた。

「ま、そおいう事だ。」

そう言い清々しい表情を浮かべるクザン。

「だからって、どうして…もう此処に…」

彼の話を聞いてその理由は、解った。戦うと言う事はとても大きな怪我をするかもしれないそして、下手したら死ぬかもしれない。

そう考えると、口が震え上手く言葉が出せなかった。
そんな私の状態に気付いたのかクザンは私の手を握り返し私を自分の方へ引き寄せた。

久々に感じる彼の温もり。
能力のせいで、とても冷えた体をしているけど。

「まあまあ、泣きなさんなァ」

「…別に、泣いてないわ。」

私の体を包み込み背をトントンと優しく叩いてくれる彼。その優しさに更に目に涙が溜まってく。


暫く、どちらも言葉を出す事なくただお互いの温もりだけを感じていた。

そして、私はクザンの胸に預けていた頭を上げクザンの顔を両手で包み込む。


「クザン…元帥なんかならなくて良いわ。負けても良いわ。けど…絶対に、また私の処に来て。」


驚いた様な表情で私を見つめるクザンに、私はただ一つ触れるだけのキスをした。