アロマ


レースのカーテン付きのキングサイズのベッドに、座るとしっかりフィットする大きなソファ、天井からぶら下がる煌びやかなシャンデリア、溜息までも拾ってしまうほど響く大きな部屋。私はほとんど毎日この部屋で過ごす。

今日も朝から本を読み続けて、ああ何て快適な1日なのだろうと用意された紅茶に三段のスタンドに置かれるクッキーやケーキ。それらを口に入れつくづくこの退屈な生活に悦ぶ。

「‥今日は、あの人も来ないし。」

そうポツリと零すと、逆に呼び寄せてしまったのか、勢い良く開かれる大きなドア。そして一直線に彼が私の元へやって来て手に持っていた本をポイとその辺に投げやり、私の膝に頭を乗せ寝っ転がる。

丁度、本の角っこから落ち痛い音が鳴る。彼の乱暴な行動に少し腹が立ったから、彼のかけるサングラスを外してやろうと試みるもその手を取られてしまい抑制される。

「‥少し寝る。」

それだけを言い、彼は寝始めた。はあ、本は投げられてしまった。何もすることができない。自身の膝に頭を乗せ眠る大人だけど子供の様な彼のブロンドの髪を撫でる。意外と柔らかい。

しばらくして、寝息が聞こえて来た。

「‥寝る子は育つ。」

大きいソファであるはずなのに彼が寝るとそうは見えないそれにこの言葉の意味がとても彼に当てはまると思った。

またしばらくして、冷や汗をかき始め、憂鬱な何かに恐れている様な苦い表情を浮かべ始める。まただ。過去の夢でも見てるのかな。

苦しむ彼を、憐れむ様な気持ちで見つめ私は彼が落ち着くと言っていた香りを放つ。

「‥ドフィ。大丈夫。私がいるから。」

次第に、汗も引き静かな寝息が聞こえ始める。私は、悪魔の実を食べた能力者。色々な香りを放つ事が出来る、アロマ人間。時々、睡眠障害に襲われる貴方は私の放つ香りのおかげで眠れる様になっている。私の能力を必要としてくれたのは貴方ぐらいよ、ドフィ。

「こんな事しか出来ないけど、いつでも私を頼って。」

そう彼に言ってみるけど、ぐっすり眠っているから聞こえてないでしょうね。でもそれで良い。こんな姿を見れるのは私ぐらいしかいないから。




以上、一話完結。