おいて行かないで


明日貴方は海に出るんだろうな。食事の準備をしていて、ふと感じたこの雰囲気。何年も一緒に暮らしているのだからその変化に気づくのも無理はない。

さて聞くべきか。そわそわしながらも配膳が完了し席に着く。いつもの様にワイングラスが触れ合い私達の食事は始まる。

食事中ちらっと何度見かしていると溜息を1つ零し、貴方はその人間の目とは思えないほどゴールド色の一度捉えられたら離せない瞳を私に向ける。

「何か、言いたい事があるのか。」

「あ‥明日、海に出るのかなって」

そう口にすると呪文が解けたかの様に捉えられていた瞳をそらす事ができた。ふと視線を下に落とすと映ったのは、食事の終わりを示す様に揃えられたナイフとフォーク。

「‥しばらく留守を頼む。」

「‥はい。」

そう一言返事をすると、ワイングラスを傾け全ての食事が終わった貴方は席を立ち上がり、おそらく自室へと向かった。

「はあ‥やっぱりか。」

何故かもう喉に食事が通らない。私は、まだ多くの赤い液体が残るワイングラスを勢い良く傾け無理やり流し込む。そして席を立ち上がるが少しぐらついた。
うん、これぐらいが丁度良い。

食器を全て片付け終え、入浴室へ。湯船に浸かっている間も何故だかぼうっとしてしまう。入浴を終え、自室へと向かい、そのまま柔らかい質の良いベッドに倒れ込む。

「‥寂しい。」

ぽつりと少し震えた声で口にすると何か抑えていたものが緩んだ様に、起き上がり自室から出て、あの人がいる部屋へ向かう。

ドアの前に立つと、先程の自信がなくなり中々入る事が出来ない。深呼吸をしてから、よしと覚悟を決めノックをする。

「princessです。‥入ります。」

口早に言い、相手の返事も聞くことなくドアを開けた。「しまった」と思いながらも顔色を変えることなく部屋に入る。奥にあるリクライニングチェアに座り本を読む貴方は1度こちらを見てから、また本の方へ目を向ける。

それだけと少し胸に沸くモヤモヤ感。一直線に貴方の元へ向かい、側のテーブルに置かれるワインボトルを勢い良く傾けグラスに半分以上注ぎ、それを全て喉に流し込む。

突然の私の行動に、唖然した様子で凝視する貴方。うん、その目が欲しかったの。一気に流し込んでしまったせいか喉が熱い、全身が徐々に体温を上げて行く。

「あつい‥くらくらする‥」

頭を抑えて、苦い表情を浮かべると「当たり前だ」とグラスにワインを注ぎ私とは違って味わう様に飲む貴方。その眼はまだ私のことを見ていて、どこか呆れた様に見るその眼が刺激的に感じてしまう。

ゆっくり貴方が持つ本を取り上げテーブルに置き、貴方の膝の上に跨る。あれ今の私凄く大胆じゃない?。アルコールの力のおかげだ。

「‥ミホーク。‥行かないで。」

率直に伝えたかった事を口にして、潤んだ視界の中で貴方を目に捉え唇を重ねた。最初は軽く触れるだけ、たまに柔らかいその唇を舐めてみたり、部屋に響くリップ音に何だか欲情する。

唇を名残惜しくも離し、見つ合い、貴方の首に腕を回しさらに身体を密着させると下の方で硬くなった物体が触れる。それに気づいて、さらに深く腰を密着させるとそれが合図だったかの様に貴方は私を抱いたまま立ち上がりベッドの方へ私を寝かせその上に跨る。

瞳が混じり合う。やっぱり貴方に見つめられると眼が晒せない。そううっとりと見つめていると、微かに開いた唇をなぞる様に触れる貴方。その指を甘噛みして舌で撫でる。誘う様に笑み、目を閉じれば唇が触れる。口内に侵入する貴方の舌が私を包み込んで、時に強く吸い込む。その間もしっかりと手は敏感な部分に触れて、さらに刺激的な感情が高ぶる。

「‥ん、欲しい。もう‥欲しい」

彼の物に触れながらそう吐息交じりの声で懇願すると、ふ、と色気の溢れる骨格を少し上がるだけの笑みを浮かべ、私のショーツを脱がせ、自身の熱を持ったそれを取り出した。大きくそそり立つそれを目に捉えた瞬間、もうそれが嬉しく、欲しくて堪らなくて笑みが溢れる。

「‥早く、きて。」

そう誘いかければ、入ってくる質量を増した厚みのある物体。はあ、と力が抜けた様な声を漏らし、もっと奥にと貴方の首に腕を回し求める。どんどん入ってくる貴方。奥まで達した時、浅く深くを繰り返し、中をかき乱す。

「だめ‥動かないで‥」

いっちゃうからと震える声で喘げば、さらに加速していく。もう快楽は目の前だ。

「お願い‥おいて行かないで‥」

そう言うのと同時に私は、果てた。後に続く様に、貴方も私の中に欲を流し込んでゆく。こんな時にさえ、自分の欲ばかりをぶつけてしまった。

疲れたせいか、眠気が襲う。寝てたまるかと重い瞼を持ち上げる。微かに貴方の眼が私を捉えてるのがわかる。貴方の頭を引き寄せ、軽くキスをする。

薄れる視界で、何か自分が口にしているが何を言っているのかわからない。視界が暗闇に包まれ、眠りに落ちた。


微かに、光が差し込む。重い瞼を持ち上げ、はっと勢い良く起き上がる。寝てしまった。んん、と唸りを上げ惜しんでいると、

「何をしているんだ」

隣から聞こえてくる私の心を落ち着かせる低音の声。振り向くと、ベッドの淵に寄っ掛かりこちらを見つめる貴方。

「!ミホーク!何で‥?」

「海に出るって」と嬉しさが込み上げるのを抑えながら問う。すると、貴方は呆れた様に溜息を1つこぼし、ふ、と微かに笑む。それにドキッとしてしまった。

「寝言でも、行くなと言われたら行けるわけがないだろ」

その言葉が嬉しくて、私は勢い良く貴方の胸に飛び込んだ。