かわらずの石


「‥ごめんね。」

バトルを終えたばかりの、黒い子ぎつねの様なポケモン、ゾロアを腕に抱える。しかし、特に傷も無く楽しく戦えたことに喜ぶ様に、princessに笑み声を上げる。

では、なぜ謝るのか。それは、このゾロアの首にぶら下がる石、かわらずの石が原因なのだ。

普通だったら、もうゾロアークへと進化しても可笑しくないくらい沢山戦って来たし覚えた技も中々なモノのゾロア。しかし、その成長は、かわらずの石と言って進化をそのまま食い止めてしまう道具のせいで抑制されてしまっている。

「‥いつになったら会えるのかな。」

ポツリとそう言葉を零し、少し眉を引き寄せ悲しそうな表情でゾロアを見つめるprincessに、ゾロアも同じ様な表情を浮かべprincessの頬を舐める。

「ありがとうね、ゾロア。」

慰める様に頬を舐める優しいパートナーに助けられているが、princessの脳裏に浮かぶ彼の面影。

その彼とは、Nという青年の事で、ポケモンと言葉を交わすことの出来る不思議な青年だった。そして、彼がprincessの元からいなくなる時、託したのがこのゾロアであった。

2人を繋ぐポケモン。princessは、そのゾロアがゾロアークへと進化してしまう事に、Nが何処か手が届かないぐらい遠くに、もう会えない様な存在になってしまうのではないかという恐怖を感じてしまい未だ、力を十分に持ったゾロアをゾロアークに進化させていない。

「‥本当、自分勝手でごめんね。」

ついにはそんな自分が嫌になって涙が溢れ更に、腕の中のゾロアを抱き寄せる。そんなprincessの涙を拭うように舐めるゾロア。こんな状態がもう何回も続いている。princessもいい加減、前に進まなければならないと思っており今日をその日にしようと決心を固めていた。1つ深呼吸をし、princessは、しゃがみ込み腕の中のゾロアを優しく、地面に着地させる。princessを不思議そうにじっと見つめるゾロア。

「‥今まで私の我儘で貴方の進化を止めててごめんね。‥たとえ貴方がゾロアークになったとしてもNとの関係は変わらないわよね。」

少し自身の今までの行動に呆れたようにでも少し寂しそうに笑むprincess。そんなprincessの言葉が理解出来てるのか、出来ていないのか、無邪気に尾を振るゾロア。もう一度深呼吸をし、princessはゾロアの首にぶら下がるかわらずの石をとった。すると、ゾロアから強い光が放ち、形が変わって行く。

それは、princessがゾロアの進化を抑制していた期間とはくらべものにならないぐらいあっという間だった。すっかり姿形がゾロアークへと変わってしまったゾロア。princessは頭を上げゾロアークの顔を撫でる。その顔は、どこか慈しむ様に穏やかな表情だったがやはりどこか切なそうだった。

「お待たせ。おめでとう。ゾロア‥これからはゾロアークよね。」

そう言って笑みを浮かべるprincessにゾロアークは、どこか逞しく、頼り甲斐のある表情を浮かべる。ふと森の中で、何かが移り変わるかの様に強い風が吹く。長い髪を抑え顔を下に下げるprincess。風が止むのと同時にゾロアークがprincessに何かを伝えるように鳴いた。その声に顔を上げゾロアークが目を向ける方へ自分も向く。

まるで一瞬、時が止まった様な、そんな衝動だった。princessの目にはっきりと鮮明に映る姿。生理的に溢れてくる涙に視界がボヤけるが、もうその姿は間違いない。

「‥エ‥ヌ‥?」

あまりの衝動に、こわばる唇を精一杯動かす。その声を聞いて、泣きそうな表情を浮かべ笑むN。

「‥N!」

princessは、もう離さまいとずっと求めていた彼の胸に飛び込んだ。