おかえり


「何よ、それ‥」

手紙と共に置かれた一つのモンスターボールそしてこの家の鍵。いつもの様に、ニート極まりない生活を行う石マニアの彼の家に行ったら、いつもだったら洞窟に入ったのか服がしっかりとしたスーツでないそれで、そのまま寝てしまっているのに、今日は綺麗に整えられたシーツ。彼がいない。

手紙にはこう記載されていた。

ーprincessへ
ボクは思うことがあってしばらく修行を続ける。当分家に帰らない、そこでお願いだ、この家の鍵、机の上にあるモンスターボールを受け取ってほしい。中にいるのはダンバル、ボクのお気に入りのポケモンだからよろしく頼むよ。princess、またいつか会おう。
ツワブキ ダイゴよりー

ぐしゃりと行き場の無い怒りを手紙を握り締めることでぶつけ、堪えきれず涙が溢れ出す。すると、光と共にモンスターボールからダンバルが出てきて泣いてる私を見てその大きな瞳は困った様に、私の周りを飛び回る。
それを抱き寄せ、さらに涙を流す。ダンバルも同じ様にか、慰める様にか、小さく鳴いた。

暫く私は、いつもと変わらず毎日の様に彼の家を訪れ窓を開け空気を入れ替えたり、ショーケースに収められた彼の宝である石の手入れをしたりして1日のほとんどをそこで過ごしていた。一日中ここにいればいつか絶対彼が帰ってくると思ったから。
しかしいつになっても彼は帰ってこない。

「ねえ、ダンバル。明日から私、ここに来るの辞めようと思うの。」

念入りに、彼の宝をメンテナンスする手を止めふわふわと動き回るダンバルへ伝えると、私の目の前で停止するダンバル。

「辞めるんじゃ無い。進もうと思って‥貴方も一緒に行きましょう」

強い眼差しで告げるとそれに答える様にダンバルが鳴く。

そして次の日私は、ヒールのパンプスを脱ぎスニーカーに履き替え、スカートではなく動きやすいパンツスタイルに大きいカバンを持って、もちろん帽子も被る。外を歩くことが多くなるから。
ダンバルと共に、彼を探す旅に出た。


まずは、ホウエン地方にある様々な洞窟
を訪れた。しかし彼が訪れた痕跡が見当たらない。そんな簡単に見つけられるとは思ってなかった。だけど、ここから先次は何処に行けばいいのか、もう会えないのでは無いかと。

「もう、いつからあの人の事探してるっけ‥貴方ももう、メタグロスにまで成長してしまったのにね。」

そう言いながら、この子がずっと好きな味のポロックを与える。嬉しそうに鳴くメタグロス。

最後の希望として訪れた場所は、洞窟では無いが、ポケモンリーグ。何と無く、各地を回るうちに所々でジムリーダーと戦ってきた訳だが、その理由は二つあって、ダンバルを強くするため。そして彼が元リーグチャンピオンであるからその直系の人達が彼の行方を知ってると思ったから。後者の理由については何も得ることができなかった。
そして、8つ全てのバッジが手に入りリーグに挑み、四天王を破りチャンピオンであるミクリと戦って見事優勝したのだが、それを遂げても私が求めているものは手に入らなかった。

行き場の無い私は旅の始まりである彼の家を訪れた。
鍵を差し込みドアを開けると、最後に訪れたのが本当に私の様でそこは少しホコリ臭かった。
久しぶりに感じるこの場所。窓を開け空気の入れ替えをする。今は慣れてしまったけど始まりの頃は重かったカバンを下ろし、長い旅でだいぶ形がよれた帽子を外す。何かが緩んだ気がして涙が溢れ出す。声を大きく上げて泣いた。

もう貴方に会えないの?
ここまで、探したのになぜ何処にもいないの。

「会いたいよ‥会いたいよ!ダイゴ!」

込み上がった感情と共にそう叫ぶ。ここまで旅をしてきて、色々なところに訪れ、見たことのない景色を見て、彼と見れたらなんて考えて、けど何処に行っても彼がいなくて、泣きそうになる日が合った。けどそれも堪えて、だけど、もう1人じゃ立ち直れない。そう思い次々と溢れ出す涙。私は本当に、彼を、ふと背後からふんわりと懐かしい温もりに包まれた。この匂い。

「‥ダイ‥ゴ?」

「ごめんね。こんなになるまで待たせちゃって。僕も会いたかったよ。princess」

本当に彼であるのか確かめる為に振り向くとそれは本当に、ずっと求めていた彼がいた。私は求める様に強く彼を抱きしめた。同じ様に、お互いが互いを求める様に強く抱きしめ合った。

「ミクリから聞いたんだ。princessがリーグ優勝したって。しかもその理由が僕だってね。僕の為にそこまで出来るprincessに本当に関心してるよ」

「馬鹿‥!笑わないで!こっちは本気で‥本気で‥探してたのに‥」

クスクスと笑いながら言う懐かしい彼の笑顔に、少しイラつきながらも愛おしくて涙が溢れてしまい声にならない。そんな私の頭を優しく撫でてくれる。

「それに、princessが、そんな重そうなカバンを持って、パンツスタイルで、それにヒールの靴を履いてなくて、肌もこんなに焼けて‥」

私の頬を撫でながら、目の前にいる彼も笑顔であるが少し眼が潤んでいた。貴方にとって今の私は凄い珍しい姿でしょうね。でもね、それほど、それぐらい必死にね、

「貴方の事を愛してるから、ここまで出来るの。」

そう告げると彼は私の唇に自身の唇を重ねた。久しぶりに感じる彼の唇。凄く心地良くて、心までも包まれてしまう。お互いが互いを求める様に深く強く絡められる。
しばらくして、愛おしそうに離される唇だが瞳はお互い離れる事はなかった。

そして、私は彼にやっと会えた喜びから満面の笑みでこう告げる。

「お帰りなさい!ダイゴ。」