彼を探す


いつからだろう。何か亀裂が出来たのは。私達3人は幼い頃からずっと一緒にいた。初めてのポケモンを貰う時も、初めて戦った時も、でもそこからはそれぞれ目指す道があってバラバラになってしまったけど旅の所々で再会してはバトルをしてたのに、いつからだろう。レッドとしばらく会っていない。

「ねえ、グリーン。私、レッドを探しに行こうと思うの。」

彼と久しぶりに再会した場所は自然豊かな草原で、そこから自分達のパートナーをモンスターボールから出し伸び伸びと遊ばせそれを眺めていた。私の言葉に一瞬は驚きを見せるも、どこか呆れた様にため息を吐くグリーン。

「あいつは、旅に出てから一度も自宅に戻ってないらしいぜ。何処にいるか宛もねえだろ。」

「宛は、あるよ。‥最後にレッドにあった日私言われたの。‥ただ強くなりたいって。シロガネ山にいる。絶対に。」

本当かと何を根拠に、と思う様に不安げな表情のグリーン。別にそこにいるとは限らないけど少しの可能性に賭けてみたいと思った。だって、また3人でバトルがしたいから。そして何よりも、彼が強さだけを求めている気がするの。

「私は少しでも、レッドの支えになりたいの。だから、行くよ。」

決心を固め立ち上がり、1匹づつこれから一緒に行くパートナーをモンスターボールに戻して行く。同じ様に立ち上がるグリーン。

「気をつけて、行けよ。」

「うん、勿論。絶対にレッドを連れて帰ってくるから。待ってて。」

ああ、と言葉を零すグリーンに背を向けシロガネ山へと向かう。シロガネ山、強さを求めるトレーナーが行き交う山だ。その頂上に向かうにはそのトレーナー達に立ち向かわなければならない。その険しい道のりだと十分に分かってる。けど、貴方が心配だから。会いたいから、進んで行くよ。


レッドと最後に会った日が脳裏に浮かぶ。そこはセキエイ高原、ポケモンリーグだ。レッドがポケモンリーグに挑戦すると言う噂を聞いて自身はリーグに興味がなかった為挑戦は考えなかったが一応8つのバッジは揃えていた。リーグはいつ終わるのかとそわそわと待っているとアナウンスで、挑戦者であるレッドが優勝し殿堂入りした事が流れた。それが自分のことの様に嬉しくて、早く「おめでとう」の一言を伝えたくて待っていた。

しばらく待っているとレッドが少し疲れた様な表情で出て来た。名前を呼び駆け寄る、しかしその目は私の知ってるいつものレッドではなかった。

「優勝、おめでとう!」

ああとあまり嬉しく無いのか短く言葉を零す。 それ以外は特に何も言わず2人の間に沈黙の時が流れる。

「凄いね!レッドは。だってポケモンリーグ優勝だよ!カントー地方で1番強いポケモントレーナーって事だからね!」

「凄い凄い」と言葉を繰り返すも、少し口元を歪めるだけで、目が笑っていない。前のレッドはこんなじゃなかった。もともと無口だけど、もう少し何だろう、バトルに勝った事に喜びを示す人だった気がする。そんな何処か遠くへ行ってしまった様な彼を引き止めたい気持で私は彼を包み込んだ。

「レッド。何か、あったの‥?」

恐る恐る問いかける。レッドの腕が私の背に回る事なく重力によって地に垂直に落ちているけどそれで良い。何処か遠くへ行ってしまった貴方を引き止めるためにやってるから。

「‥‥俺は、ただ強くなりたい。」

その言葉に、私はレッドの顔を見た。その顔は、発した言葉に忠実で本当にそれだけを目指す様な表情をしていた。そんな見たこともない彼の表情に私は今にも泣きそうな表情を浮かべる。すると彼も少し泣きそうな表情で笑んでから私の頭を撫で、帽子を深く被り直し行ってしまった。

あの時は、ただ黙ってそれを送ることしか出来なかったけどあの時見せた彼の表情。きっと誰かに助けを求めてる。強さだけを求めている自分を助けてくれと。

「やっと、やっと頂上。‥だけど、何この吹雪。」

ただひたすら彼を求めて、登りつめた山。遂に、頂上まで来たものの吹雪が酷くそう簡単には見つかる気がしない。

「グリーンからウインディ借りてこれば良かったな‥」

生憎、手持ちにこの吹雪に耐えられそうな熱を放つポケモンがいない。寒い寒いと繰り返しながらも脚を前に運ぶ。けど、この正面からぶつかってくる雪が、これ以上来るなと阻止しているみたいで脚が止まる。ボヤける視界。泣いたらすぐ涙が凍るから絶対に流さない。

「‥レッド。どこにいるの‥」

目を瞑ったら終わりなのに、必死に瞼を上げ正面を見る。ボヤける視界で最後に見たのは、吹雪の中、帽子を抑えながら私の方にやってくる赤い彼だった。

何だか暖かい。そう思い目を開けると目の前にバチバチと燃える火があった。むくりと起き上がると自分に掛けられていた布が落ちる。そして、この焚き火を挟んで真向かいにいたのはずっと探していた、ずっと求めていたレッドだ。岩に寄っ掛かり腕を組み下を向き眠る彼。私は目の前に彼がいる事から嬉しさからか涙が溜まって次々と溢れ出す。

すると、彼は目が覚めたのか顔を上げ私と彼は久々にお互い顔を合わせた。

「やっと‥やっと見つけた。ずっと探してたのよ」

次々と溢れ出す涙と共に震える声でそう告げると、彼は少し眉を下げ困った様な表情でただ「ごめん」とだけ言う。

「違うの。その言葉を求めてるんじゃない。‥素直に言って、助けてって。」

そう言うと彼はその言葉が彼の心の何かを緩ませたのか、その瞳を大きく見開いて顔を歪ませ、帽子を深く被り下を向く。その手は震えていた。やっぱりそうだったんだ。なら私が助ける。そしてまた私は彼を包み込んだ。そして彼もしっかり私の背に腕を回した。

「レッドは、本当に強くなった。‥けどそれだけを求めないで。行き詰っても1人で抱えないで。私達がいつもいるから。」

脳裏に浮かぶ、私、レッド、グリーン3人で初めてポケモンを貰った日、バトルした日、それぞれの道へ向かう為に別れたあの場所。私達3人の思い出が鮮明に回顧する。レッドも同じことを感じたのか肩を震わせ、泣いていた。

「一緒に、帰ろう。」

潤んだ目で無理やりに笑みを浮かべそう告げると、彼も同じ様な表情を浮かべ頷いた。