もう、


「もう、俺にしろよ」

彼はそう言って私の事を抱きしめるけど、私はそれに答える様に腕を回す事は無かった。彼は確かに優しい。あの人がいなくなってから何かと気にかけてくれるし、好きだ。けど、その好きな気持ちはあの人とは違う。

「‥ありがとう。グリーン‥でもゴメンなさい。‥甘えられない。」

彼の胸を押し、申し訳ない気持ちで少し眉を下げる。彼も同じ様な表情を浮かべる。グリーンの優しさに甘えられない。

でも、何故だろう。今回の彼は中々私を包み込む腕を離そうとしない。

「princess、これで3度目だぜ。‥俺がこう言ったのも。‥あいつがお前を悲しませたのも。」

視界がぼやけ始めた。今までは堪えることが出来たのに。ダメ、次々と涙が溢れてくる。そうだ、グリーンがこうやって私を包み込んだのは3回目。1回目は、あの人がリーグ戦に挑む前のバトルで私が負けた時。2回目は、あの人と連絡すら取れなくなった時。そして3回目は、私がやっとあの人の居場所を見つけて再開したのに、突き放されてしまった時。

「‥シロガネ山に行って、あの人に会った時言われたの。‥もう構わないでくれって。」

涙でボヤける視界でグリーンの顔を見上げると、彼はどこか怒りを抑えるような表情を浮かべ、歯を食いしばり、また私を強く抱き締めた。そしてもう一度口にする。

「もう、俺にしろよ。」

そして、私は静かにゆっくりと彼の背に腕を回した。ごめんなさい。どうか神様、見ていないで。私は心に空いた寂しさを彼の優しさによって埋める選択をした。