少年少女達


 お世話係として三日目、最終日。空は昨日に引き続き灰色の雲に覆われ雨が降り続いていた。にほんばれ、を何体ものポケモンにやってもらえば天候を変わると悪だくみしたが、そんな事出来るわけもなく、最終日は静かに研究所内で過ごすことにした。

そして、いよいよ新しいトレーナーにポケモンを託す日が来た。空は新たなトレーナーを歓迎する様に晴れ晴れとしていた。プリンセスの心もウキウキと跳ねていた。

「いっぱい食べて元気な姿を見せてあげようね」

山盛りにポケフーズの入った容器を無邪気にじゃれあっているハリマロン達の所に持っていくと、待ってましたと言わんばかりにプリンセスの足元で跳ねている。

「…今日でこの子達とお別れなんだなあ…」

今日までの3日間の事を回顧すると様々な出来事があったな、と微笑ましくポケフーズを頬張るハリマロン達を見ると、3日前に比べて逞しくなった様に見える。

ふと、ドアの向こうから声が響いた。どうやらプラターヌが何か言っている様だ。そしてガチャッとドアが開かれ、大層賑やかな面持ちで入って来た。

「そろそろ新たな冒険の幕を開ける少年少女達が来る頃だよ」

歓迎する様に両手を広げプリンセス達のもとへ寄ってくるプラターヌに、プリンセス
はプラターヌが何だか少年の様に心はしゃいでいる様に見えて、それが伝わったのか顔を綻ばせた。

そしてプラターヌの言葉通り、研究所の玄関から「ポケモンを貰いに来ました!」という大きな挨拶が響き渡ってきた。

プラターヌとプリンセスは少年少女達の活気溢れる挨拶を聞いてお互いの顔を見合わせて、どちらともなく笑みを浮かべた。ハリマロン達は既に食事を終えていて口の周りをペロっと舐めながら不思議そうな表情で首を傾げプリンセスとプラターヌを見つめる。

「さあ、いよいよ冒険の始まりだ」

プラターヌはそう言葉を零し、自身の足元で目を閉じ瞑想するケロマツを抱きかかえた。するとハリマロンが僕も僕も、と言う様に両手を上げプラターヌのもとへ駆け下り、そんなハリマロンもプラターヌは抱きかかえた。プリンセスも同じように、自分の目の前でゆらゆらとしっぽを揺らし、目をぱちくりさせるフォッコを抱きかかえた。
 そしてプラターヌとプリンセスは初めてのポケモンを待ちわびる少年少女達のもとへ向かった。



「……そして最後にこの子が、ほのおタイプのフォッコ。…少し臆病であまりバトルを好まないかもしれないけど、いざという時はきっと君たちの事を助けてくれるよ」

ハリマロン、ケロマツ、フォッコの順番で一体一体、どのようなタイプかどのような性格かを説明するプリンセス。通常だったら、ポケモンの特性に詳しい博士であるプラターヌが紹介していくのだが、今回はプリンセスの方がより身近に世話していた為、三体の特性を一番に理解してるだろうとプリンセスがそれを担当した。
 全ての説明を終え、プリンセスが隣にいるプラターヌに目を向けるとプラターヌは上出来だ、というようににこりと笑みを浮かべた。

「さあ、よーく選んで、どの子も優秀だ。」

言葉に偽りなどないと自信あふれる口ぶりのプラターヌ。更にプリンセスの肩に手を掛け「このお姉さんが大切にお世話したからね」と付け加えた。思わず動揺を隠し切れずに赤らめた顔を上げれば、プラターヌは「そうだろう?」と言う様に首を傾げ笑んだ。

 少年少女達はきらきらと目を輝かせ、自分たちの目の前にいる三体の小さなポケモン達を見つめている。そして一人の少年が「せーので欲しいポケモンを指さそう!」と声を上げ、他の2人はそれに賛成し、「せーの」という活気溢れる声を上げそれぞれ指を差した。

「すごい…見事にみんなばらばら…!」

少年少女達の指先は皆方向が異なっていた。その奇跡的瞬間に思わず感激の言葉が零れるプリンセス。「穏便に決まって良かった」とプラターヌもほっとした表情を浮かべていた。

 少年少女達は、それぞれが選んだポケモンを腕に抱えて、ようやく手に入れた初めてのポケモンに喜びの表情を浮かべた。そしてそれをプラターヌとプリンセスは胸の焦がれる様な気持ちで、彼らのこれから始まる旅の祈願を込めて見送った。

「何だか、こっちまでわくわくしちゃいますね。」

研究所の外まで見送って、去ってゆく子供たちの姿にプリンセスは眩しそうに目を細めた。

「そうだね…これから様々なものを見て、触れて、感じて大きくなっていくのだろうね。」
「…はい……ただ、ああしてポケモンと触れ合い、分かち合う気持ちはいつまでも持ち続けて欲しい…そう思います。」
「……プリンセス…」

まるで過去の自分の行動を思い出す様に悲し気に遠くを見つめるプリンセスの名を呼んだ。プラターヌの声に応える様に顔を向けると、プラターヌは眉を下げて口元に笑みを浮かべながらプリンセスを見つめていた。

そしてプラターヌは、ただ一言、「ありがとう」と言葉を零した。

たったその一言で、プラターヌの様々な思いが全身に流れてきたような気がしてプリンセスは顔を綻ばせ、気持ちを込めて深く頭を下げた。