互いを思って
「博士!」
ミアレタワー前に着き、タクシーから降りた際、多くの人々がこのシンボルの前で誰かと待ち合わせしている様で探すのは大変かと思ったがプリンセスは直ぐにプラターヌを発見した。
きょろきょろと周囲を見渡していたプラターヌはプリンセスに気が付いた様で、見つけた事に安堵を示す様に笑みを浮かべプリンセスの元へ駆け寄った。
「やあ、プリンセス…いつもと雰囲気が違くて驚いたよ。」
「博士こそ」
普段カジュアルな服装を着こなすプリンセスのウエストを強調したひざ丈Aラインドレス姿ーープラターヌの白衣を身につけておらずジャケットをビシッと着こなした姿ーーお互いが普段とは違った服装、まとう雰囲気に目を合わせるのも照れかしげだった。
「じゃあ、行こうか」
プラターヌの穏和なエスコートに促される様にプリンセスは「はい」と返事をし、二人はミアレタワーのゲートをくぐった。
エレベーターに乗ると、プラターヌはレストランのある階のボタンを押す。プリンセスは先ほどコゼット達から聞いた話を思い出し、これから向かうレストランがどれほどのものなのか、と緊張していた。エレベーター内で二人は一言も言葉を交わさなかったが二人にとって沈黙に不快感は無かったーー寧ろ居心地の良いものだった。
エレベーターが目的の階に到着したことを示すベルが鳴り、扉が開かれた。プラターヌは先にプリンセスが降りるのを促し、彼女は軽く頭を下げ、降りた。
プリンセスは目の前に広がる光景に思わず息を飲んだ。360度に視界の端まで広がる大窓から覗くカロスの街、客席は点々と規律良く並べられていて、きっと予約していなければ取る事の出来ないであろうと見てわかる。照明の落ち着いたほんのり明かりの灯った空間に僅かに鳥肌が立った。あんなにもぎらぎらと街を照らすタワーにこの様な空間がある事に驚きが隠せない。
プリンセスの興奮が鳴りやまない内に、プラターヌはウェイターに予約の確認を取り席の案内をされ、席に着くなり、横を見ればカロスの街が一望でき、更にプリンセスに感動を与えた。
「プラターヌ博士…私、信じられないです」
プリンセスは窓から覗く景色を眺め、プラターヌに目を向け瞳をぱちくりとさせながらいう。
「本当に、こんな凄い所にお誘いいただいて…何てお礼したらいいか…」
「いやいや、お礼なんて…それに当然のことさ」
眉根を寄せて顔を下げるプリンセスにプラターヌは胸元で手を振り、垂れ目の瞳を細めた。
「プリンセスが来てくれてから研究所は大助かりだ、お礼をしなければならないのは僕達の方だよ」
ありがとう、と柔和な口調でつづけた。プリンセスは少し照れかしげに首を振った。
料理は前菜から順に提供されるフルコースのものだった。どの料理もカロス地方でしか味わえない物ばかりで、プリンセスは、どれを口にしても目を輝かせてプラターヌを見つめた。そんな彼女の素直に美味しさを表現する姿にプラターヌは顔を綻ばせ、より一層、食事が美味しいと感じた。
十分に二人の胃袋が満たされた頃、コースの仕上げであるデザートとコーヒーを味わいながらプリンセスの今までの旅の話やプラターヌの研究の話など、あまり深く話せていなかった部分を互いに話し、聴いていた。
ふと、プラターヌが熱く研究について語っている時だったーー
「プラターヌ博士!」
女性のソプラノ音の声がプラターヌの名を呼んだ。プラターヌのプリンセスに向けていた瞳がその後ろの方へと向く。プリンセスは首を傾げた。
「カルネさん!」
二人の席にやって来たのはカロスチャンピオン、カルネだった。プリンセスはハッと目を見開いた。彼女とは以前会った事があったからだーー初めてミアレシティに来た際、研究所の場所が分からず困っていた時に案内してくれたのがカルネだった。
「プリンセスさんだったんですね、後ろ姿で分かりませんでした…とても素敵です」
ぼーっとカルネを見つめるプリンセスに彼女は凛とした太い眉を下げ微笑んだ。そしてプリンセスも、ハッと意識を戻し、そんな、と照れかしげに手と首を振った。するとカルネは驚いた様に眉を上げ、ふふふ、と口を押え笑い、プラターヌを見た。
「あら…博士も、そう思いますよね」
「ああ…素敵だ」
カルネから突然ふられた言葉に、プラターヌは眉を下げて笑みながら答えた。プリンセスも同じように困った様に微笑んだ。
「以前はご一緒にお食事に付き合っていただきありがとうございました」
「いえ、こちらこそ」
プラターヌの肩に手を添え、真っ直ぐ瞳を見つめて礼を述べるカルネと、優しく微笑みかけるプラターヌ。
プリンセスはその光景に、微かに心の中でチクッと小さな針が刺さった様な感覚に襲われた。以前二人が、どこか、ここかもしれない場所で食事をしたという事実が更にプリンセスの心を締め付けた。
「…プリンセス…?」
ぼーっと自分を見つめるプリンセスにプラターヌが首を傾げて名を呼ぶと、彼女はハッと瞳を揺るがせ、眉を下げながら微笑みかけた。
「あっ、ごめんなさい…ぼーっとしてしまって…何でもないです」
プラターヌはプリンセスの様子を少し不思議に思いながらも、「そうかい」と微笑み掛けた。そして、一度窓から覗く景色を眺めてからプリンセスを見つめた。
「ここの階からしか行けない展望台があるんだ」
プラターヌは席から立ち上がり、プリンセスのもとへ寄り、手を差し伸べた。まるで、行こう、と誘うみたいに。いつものプラターヌからは考えられないその姿にプリンセスは、照れながらもその手に自分の手を添えた。
「凄い…素敵…」
先程よりも更に暗く、小さな光がぽつぽつとあるだけの展望台は大窓から覗くカロスの街の景色を一層、際立てた。手すりに手を掛け街の景色に見入るプリンセスの隣に並ぶプラターヌ。プリンセスは、ちらっと彼に目配せ息を吸った。
「プラターヌ博士…今日は本当にありがとうございました…」
プラターヌに目を向け心から感謝を述べると、彼は笑みを浮かべ首を振った。そして目尻の下がった優し気な目をプリンセスに向ける。
「プリンセスが喜んでくれて良かった」
照れかしげに顔を正面に向けたプラターヌの横顔にプリンセスは思わず見とれてしまった。そしてようやく自覚したーー自分はこの人の事が好きなんだ、と。同時に悲しい気持ちも湧き上がった。先ほどのカルネとプラターヌが話している時の姿が頭を過ったのだ。二人はきっと、ずっと前から互いの事をよく知っていて尊敬しあっている間柄であるはずだ、そしてカルネは自分には知らないプラターヌの一面を知っているーーということを考えると胸が苦しくなった。
プリンセスは一度瞳を閉じ、深呼吸した。そして瞳を開け、プラターヌに体を向けた。
「博士は…カルネさんの様な女性がお好み何ですか…?」
真っ直ぐに自分を見つめ口にするプリンセスにプラターヌは一瞬、瞳を大きく見開いた。そして、すぐにいつもの様に、穏和な表現浮かべ彼女に向き合う。
「僕は、ポケモンに対して真っ直ぐ向き合う心と…自分の事は二の次で、優しい心を持った…」
プラターヌの言葉が止まったーープリンセスは、その先を聞きたくない、という様に顔を下げた。するとプラターヌの手がプリンセスの頬に添えられた。思わず顔を上げた時、プラターヌは真っ直ぐ彼女の瞳を見つめていた。
「プリンセスの様な子が好きだよ」
「…博士…」
そして、お互い、惹かれる様に顔が近づいていくーープリンセスもプラターヌも瞳を閉じた。
唇が触れるーーと思った時だった。突然、プリンセスのクラッチバックがブルブルと音を鳴らし揺れた。
ハッとお互い瞳を開け、咄嗟に顔が離れ、プリンセスはバックの中からポケギアを取り出した。
「ご、ごめんなさい…」
「いやいや、それより急ぎの連絡だと大変だからね」
プリンセスは、申し訳なさそうにプラターヌに背を向け、電話にでた。
「…はい」
「やあ…プリンセス…俺だけど」
恐る恐る電話に出ると、向こうの方から聞き慣れた懐かしい声が聞こえてきた。プリンセスは一瞬にしてそれが誰なのか分かった。
「ワタル…!…どうしたの、突然電話してくるなんて」
「プリンセスに変なムシが付いていないかなって」
「冗談は止めて…本当の理由は…?」
プリンセスは控えめに声を上げ、カロスに来る前に最後に別れを告げた人物の連絡の目的を真摯に訊いた。
すると向こうの方では「怖い怖い」と茶化すような口ぶりで、更にプリンセスの機嫌を煽る声が発せられた。しかし、彼女は、次に耳に入った言葉に動揺を示した。
「実は今、カロスに到着したんだ。」
「なんで…!」
すぐに食いつく様に訊き返すプリンセスにワタルは、くすくす、と堪えきれない様な笑いをあげた。笑ってないで、と怪訝そうにワケを迫るプリンセスにワタルは、ふう、と一つ息をついた。
「君を連れて帰る為だよ、プリンセス」
はっきりと聞こえた言葉にプリンセスは、漠然と頭の中が真っ白になった。
ミアレタワー前に着き、タクシーから降りた際、多くの人々がこのシンボルの前で誰かと待ち合わせしている様で探すのは大変かと思ったがプリンセスは直ぐにプラターヌを発見した。
きょろきょろと周囲を見渡していたプラターヌはプリンセスに気が付いた様で、見つけた事に安堵を示す様に笑みを浮かべプリンセスの元へ駆け寄った。
「やあ、プリンセス…いつもと雰囲気が違くて驚いたよ。」
「博士こそ」
普段カジュアルな服装を着こなすプリンセスのウエストを強調したひざ丈Aラインドレス姿ーープラターヌの白衣を身につけておらずジャケットをビシッと着こなした姿ーーお互いが普段とは違った服装、まとう雰囲気に目を合わせるのも照れかしげだった。
「じゃあ、行こうか」
プラターヌの穏和なエスコートに促される様にプリンセスは「はい」と返事をし、二人はミアレタワーのゲートをくぐった。
エレベーターに乗ると、プラターヌはレストランのある階のボタンを押す。プリンセスは先ほどコゼット達から聞いた話を思い出し、これから向かうレストランがどれほどのものなのか、と緊張していた。エレベーター内で二人は一言も言葉を交わさなかったが二人にとって沈黙に不快感は無かったーー寧ろ居心地の良いものだった。
エレベーターが目的の階に到着したことを示すベルが鳴り、扉が開かれた。プラターヌは先にプリンセスが降りるのを促し、彼女は軽く頭を下げ、降りた。
プリンセスは目の前に広がる光景に思わず息を飲んだ。360度に視界の端まで広がる大窓から覗くカロスの街、客席は点々と規律良く並べられていて、きっと予約していなければ取る事の出来ないであろうと見てわかる。照明の落ち着いたほんのり明かりの灯った空間に僅かに鳥肌が立った。あんなにもぎらぎらと街を照らすタワーにこの様な空間がある事に驚きが隠せない。
プリンセスの興奮が鳴りやまない内に、プラターヌはウェイターに予約の確認を取り席の案内をされ、席に着くなり、横を見ればカロスの街が一望でき、更にプリンセスに感動を与えた。
「プラターヌ博士…私、信じられないです」
プリンセスは窓から覗く景色を眺め、プラターヌに目を向け瞳をぱちくりとさせながらいう。
「本当に、こんな凄い所にお誘いいただいて…何てお礼したらいいか…」
「いやいや、お礼なんて…それに当然のことさ」
眉根を寄せて顔を下げるプリンセスにプラターヌは胸元で手を振り、垂れ目の瞳を細めた。
「プリンセスが来てくれてから研究所は大助かりだ、お礼をしなければならないのは僕達の方だよ」
ありがとう、と柔和な口調でつづけた。プリンセスは少し照れかしげに首を振った。
料理は前菜から順に提供されるフルコースのものだった。どの料理もカロス地方でしか味わえない物ばかりで、プリンセスは、どれを口にしても目を輝かせてプラターヌを見つめた。そんな彼女の素直に美味しさを表現する姿にプラターヌは顔を綻ばせ、より一層、食事が美味しいと感じた。
十分に二人の胃袋が満たされた頃、コースの仕上げであるデザートとコーヒーを味わいながらプリンセスの今までの旅の話やプラターヌの研究の話など、あまり深く話せていなかった部分を互いに話し、聴いていた。
ふと、プラターヌが熱く研究について語っている時だったーー
「プラターヌ博士!」
女性のソプラノ音の声がプラターヌの名を呼んだ。プラターヌのプリンセスに向けていた瞳がその後ろの方へと向く。プリンセスは首を傾げた。
「カルネさん!」
二人の席にやって来たのはカロスチャンピオン、カルネだった。プリンセスはハッと目を見開いた。彼女とは以前会った事があったからだーー初めてミアレシティに来た際、研究所の場所が分からず困っていた時に案内してくれたのがカルネだった。
「プリンセスさんだったんですね、後ろ姿で分かりませんでした…とても素敵です」
ぼーっとカルネを見つめるプリンセスに彼女は凛とした太い眉を下げ微笑んだ。そしてプリンセスも、ハッと意識を戻し、そんな、と照れかしげに手と首を振った。するとカルネは驚いた様に眉を上げ、ふふふ、と口を押え笑い、プラターヌを見た。
「あら…博士も、そう思いますよね」
「ああ…素敵だ」
カルネから突然ふられた言葉に、プラターヌは眉を下げて笑みながら答えた。プリンセスも同じように困った様に微笑んだ。
「以前はご一緒にお食事に付き合っていただきありがとうございました」
「いえ、こちらこそ」
プラターヌの肩に手を添え、真っ直ぐ瞳を見つめて礼を述べるカルネと、優しく微笑みかけるプラターヌ。
プリンセスはその光景に、微かに心の中でチクッと小さな針が刺さった様な感覚に襲われた。以前二人が、どこか、ここかもしれない場所で食事をしたという事実が更にプリンセスの心を締め付けた。
「…プリンセス…?」
ぼーっと自分を見つめるプリンセスにプラターヌが首を傾げて名を呼ぶと、彼女はハッと瞳を揺るがせ、眉を下げながら微笑みかけた。
「あっ、ごめんなさい…ぼーっとしてしまって…何でもないです」
プラターヌはプリンセスの様子を少し不思議に思いながらも、「そうかい」と微笑み掛けた。そして、一度窓から覗く景色を眺めてからプリンセスを見つめた。
「ここの階からしか行けない展望台があるんだ」
プラターヌは席から立ち上がり、プリンセスのもとへ寄り、手を差し伸べた。まるで、行こう、と誘うみたいに。いつものプラターヌからは考えられないその姿にプリンセスは、照れながらもその手に自分の手を添えた。
「凄い…素敵…」
先程よりも更に暗く、小さな光がぽつぽつとあるだけの展望台は大窓から覗くカロスの街の景色を一層、際立てた。手すりに手を掛け街の景色に見入るプリンセスの隣に並ぶプラターヌ。プリンセスは、ちらっと彼に目配せ息を吸った。
「プラターヌ博士…今日は本当にありがとうございました…」
プラターヌに目を向け心から感謝を述べると、彼は笑みを浮かべ首を振った。そして目尻の下がった優し気な目をプリンセスに向ける。
「プリンセスが喜んでくれて良かった」
照れかしげに顔を正面に向けたプラターヌの横顔にプリンセスは思わず見とれてしまった。そしてようやく自覚したーー自分はこの人の事が好きなんだ、と。同時に悲しい気持ちも湧き上がった。先ほどのカルネとプラターヌが話している時の姿が頭を過ったのだ。二人はきっと、ずっと前から互いの事をよく知っていて尊敬しあっている間柄であるはずだ、そしてカルネは自分には知らないプラターヌの一面を知っているーーということを考えると胸が苦しくなった。
プリンセスは一度瞳を閉じ、深呼吸した。そして瞳を開け、プラターヌに体を向けた。
「博士は…カルネさんの様な女性がお好み何ですか…?」
真っ直ぐに自分を見つめ口にするプリンセスにプラターヌは一瞬、瞳を大きく見開いた。そして、すぐにいつもの様に、穏和な表現浮かべ彼女に向き合う。
「僕は、ポケモンに対して真っ直ぐ向き合う心と…自分の事は二の次で、優しい心を持った…」
プラターヌの言葉が止まったーープリンセスは、その先を聞きたくない、という様に顔を下げた。するとプラターヌの手がプリンセスの頬に添えられた。思わず顔を上げた時、プラターヌは真っ直ぐ彼女の瞳を見つめていた。
「プリンセスの様な子が好きだよ」
「…博士…」
そして、お互い、惹かれる様に顔が近づいていくーープリンセスもプラターヌも瞳を閉じた。
唇が触れるーーと思った時だった。突然、プリンセスのクラッチバックがブルブルと音を鳴らし揺れた。
ハッとお互い瞳を開け、咄嗟に顔が離れ、プリンセスはバックの中からポケギアを取り出した。
「ご、ごめんなさい…」
「いやいや、それより急ぎの連絡だと大変だからね」
プリンセスは、申し訳なさそうにプラターヌに背を向け、電話にでた。
「…はい」
「やあ…プリンセス…俺だけど」
恐る恐る電話に出ると、向こうの方から聞き慣れた懐かしい声が聞こえてきた。プリンセスは一瞬にしてそれが誰なのか分かった。
「ワタル…!…どうしたの、突然電話してくるなんて」
「プリンセスに変なムシが付いていないかなって」
「冗談は止めて…本当の理由は…?」
プリンセスは控えめに声を上げ、カロスに来る前に最後に別れを告げた人物の連絡の目的を真摯に訊いた。
すると向こうの方では「怖い怖い」と茶化すような口ぶりで、更にプリンセスの機嫌を煽る声が発せられた。しかし、彼女は、次に耳に入った言葉に動揺を示した。
「実は今、カロスに到着したんだ。」
「なんで…!」
すぐに食いつく様に訊き返すプリンセスにワタルは、くすくす、と堪えきれない様な笑いをあげた。笑ってないで、と怪訝そうにワケを迫るプリンセスにワタルは、ふう、と一つ息をついた。
「君を連れて帰る為だよ、プリンセス」
はっきりと聞こえた言葉にプリンセスは、漠然と頭の中が真っ白になった。