行って来ます


翌朝、昨夜の事を思い出させる汗ばんだ身体を流すため風呂に入り髪を乾かし、服に着替える。

「すぐ、行くのか?」

同じ様に支度をするワタルが何気無く問う。鏡の前で、足りないものはないかチェックをする。

「うん、そうだね。あ、でもとりあえずアルトマーレに帰る、かな。」

そうかと呟き、ワタルは自身のトレードマークとも言えるマントを肩に掛け全ての準備が整う。

アルトマーレ、ジョウト地方にある水の都と言われる孤島である。そこの出身であるプリンセスは旅に出る前に一度帰らなければと思った。

よし。と準備が整い声を上げるプリンセス。そんなプリンセスの前に立つワタル。上目遣いになるその身長差に、見上げる様にして少し笑みを浮かべる。

「じゃあ、行くね‥またこっちに戻って来たら連絡する。」

やはり別れというものはどこか寂しい。そう思い眉を下げ少し苦い顔をしてると、ああ、と返事をし、ゴツゴツとした、長い男らしい指でプリンセスの震える下唇をなぞる。静かに目を閉じるとそれに答える様に触れられる唇。どこか名残惜しいが触れるだけのキスを一つ。

「行って来ます。」

深呼吸をし笑みを浮かべ、ワタルを背に向け扉を勢い良く開けた。一つモンスターボールをバッグから取り出しそれを雲ひとつない空に投げる。

「ー。アルトマーレまでお願い。」

そう言うと、大きな翼を更に上下させ返事をするかの様に声を上げるパートナー。その大きな背に乗り、大空に向かい羽ばたいて行く。向かうは、始まりの場所アルトマーレ。


大空には、キャモメやペリッパー、ピジョンなど様々な飛行タイプのポケモンが飛んでいた。懐かしい海の香りが風に乗り流れてくる。そろそろアルトマーレに着く様だ。

「この辺で降りよっか。」

耳元でなるべく大きく声を張り上げるとプリンセスにチラッと目を向け喉を鳴らし下降していく。パートナーが着地した後、地へと足を下ろす。大きく深呼吸をひとつし、「お疲れ様」と頭を撫でれば目を細め喜ぶパートナーに同じ様に笑みを浮かべモンスターボールへと戻した。


「ただいま。」

迷路の様な路地をスラスラと歩いて行き、自宅へ向かい、扉を開けてそう言えば出迎えにやって来る。

「いつもありがとうね。‥お留守番に部屋のお掃除。助かってます。」

2日ぶりに帰った自宅は、しっかりと部屋は綺麗に保たれていて、やはり自分のパートナーは優秀だなと思いながら頭を撫でれば、喜び声を上げる。

「ー。久しぶりに旅に出ようと思うの。」

荷物をまとめながらそう呟くと、興味を示したかの様にプリンセスに目を向けるパートナー。

「何年前だったかな?最後に旅したの。‥あなたも行きたいでしょ?」

思い出を回顧する様に懐かしんでいると、プリンセスの誘いに返事をする様に声を上げ、笑みを浮かべる。

準備は整った。久しぶりに彼女をモンスターボールへと入れ、バッグにしまう。

「行って来ます。」

誰もいない自宅に、大きく声を張り上げた。