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 今思えば、父親は少し特殊な人だった。

 「魔術」というものを使って火をつけたり、宝石で失くした物を探したりしていた。
 いつもいつも机に向かって書き物をしながらぶつぶつと呟き、時たま外に出ては色々な植物や鉱物を採取して来たり、仕事と言う仕事をしているようには思えなかった。かといって貧乏であったかと言われるとそうでもない。ご飯も、衣服も、家も、立派とまで言えないがきちんとあったし、満足もしていた。
 父親が少し変な人だと知ったのは、近所に住む貴族の子供と友達になった時だった。その友達の話によると、何もないところで着火装置もなく火をつけることができるのは「神の目」というものを持っていなければできないはず、とのことだった。その時まで私は元素、というものを知らなかった。この世界は元素であふれていて、選ばれた人間には神様から「神の目」を授かり、元素を扱う能力を得るらしい。
 私はそれを友達から聞いて、父親が選ばれた人間だと思ってすごく興奮したのを覚えている。実際は勘違いだったのだが。否、ある意味では選ばれた人間ともいえる。

 父親は、元素力の強いものや生物を認識することが全くできなかったのだ。
 例えばスライムという元素生物に無相という謎のモニュメント、あとはシールドとかの認識が全くできていなかった。それを私に伝えてきた時、父親は眉をひそめながら私を外に連れ出してアカツキワイナリー近くの水辺に連れて行ってくれた。そして、水辺近くを指さして「何かみえるか」と私に聞いてきたのを覚えている。じっと父親が指さす先を見たが、そこには何も見えなかった。私は正直に父親に伝えると、顔色を変えてそうかと呟き、そのまま帰路についた。速足で歩く父親に置いてかれないように駆け足でついていくと、父親は私も元素力が強い生物を認識することができないことを懇切丁寧に説明してくれた。それがこの世界においてどれだけ危険なことなのか、元素とは何なのか、そして申し訳ないと。
 その日から父親は机ではなく、私にむかって身を守る方法を毎日叩き込んだ。その中には「魔術」もあった。私も父親と同じように「魔術」が使える人間だったらしい。「魔術」は生まれ持った素質が大事だと、修行中に何度も聞いたのだ。
 父親の教えはスパルタだったが充実していた。あの日までは。

 あの日、いつものように父親と修行をしていた。父親と私とでは魔術の扱いが全く違うようで、父親は難しい顔をしていた。どうしようかと二人で悩んでいた時、数名の男に異形の者が家に押し入ってきて──────







 バケツをひっくり返したような大雨の中、往生堂の客卿である鍾離はとある店の軒下で雨宿りをしていた。朝から雨が降りそうだとは思っていたが、ここまで大雨が降るとは思っていなかった彼は、傘を持っていなかったのだ。鍾離は近くの店で傘を購入するか借りるかを考えたが、店の人に声をかけたのが遅かったのかすでに他の人らへ渡してしまったらしく、彼は仕方なしにこうして軒下で雨音を楽しむことになったのだ。
 すでに数十分、こうして足止めを食らっていた彼だが、雨の勢いからして傘を差しても濡れるだろうし、それならば濡れることに違いはないと大雨の中歩き出した。
 璃月港はいつも人で活気があるが、大雨のせいか外を歩いている人は千岩軍以外殆ど見えなかった。そこで、鍾離はふと気が付いた。千岩軍がいつもより遥かに多い、と。こんな大雨で一般人はもちろん商人までもが店を仕舞おうとしている中、千岩軍だけは人数が減るどころか、倍以上に辺りを警備しているように思えた。



「すまない、何か事件でもあったのだろうか」



 鍾離は近くにいた千岩軍の男二人組に声をかけた。声をかけられた男らは、雨に濡れてへたっている髪を気にすることなく姿勢を正して鍾離の問いに答えた。



「近くで土砂崩れがあったのですが、それに巻き込まれた民家の中から少女が救出されまして」
「ふむ、では身元を探していると言ったところか」
「いえ、実は・・・・」



 千岩軍の男ら二人は少し悩んでから小声で話し込み、そして決心したかのような表情で鍾離に近づいて周りに聞こえないようにして話し始めた。



「少々込み入ったことになっておりまして・・・・・鍾離先生ならば、きっと助言していただけると思いますのでお伝えしますが他言無用でお願いできますか?きちんとお礼はさせていただきます」
「わかった」



 鍾離は、助言くらいならば契約も何も傘一つ貸してもらえれば構わないと千岩軍の男に伝える。男はほっと息を吐き、1人は鍾離の要望に応えるため傘を取りに行って残った1人は難しい顔をして口をひらいた。



「その救助された少女、実は座敷牢に監禁されていたんです。それはもう酷い状況だったと聞いてます。少女しかいませんでしたが、つい数時間ほど前まで民家に監禁犯がいた痕跡があったため緊急で犯人を捜しているところだったのです」
「その少女からの情報はなかったのだろうか」
「だいぶ衰弱しており、話が聞ける状態ではなかったのです。それで、身元も見た目から璃月人か稲妻人かくらしか分からなくて・・・・・身元不明の少女」



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