大人の階段01


もうすぐ、特別な日がやってくる。

毎年その日は特別だけど、今年は私にとって意味が違ってくる。

16歳。

あの約束は、覚えてくれているのだろうか。







制服に袖を通して、シャツのボタンを2つ開けてピンク色のネクタイを緩く締める。

早起きして、先日買った大人向けファッション雑誌のメイク特集を真似てみる。


――うん、いいじゃん。


いってきます、と玄関先で意気揚々に声を上げてドアを開けて隣の家をみると、ちょうどバイクから降りて玄関に入ろうとする彼を見つけた。

来るって分かってた。

むしろ、知ってた。

それなのに私の胸はドキンと高鳴る。



「実弥お兄ちゃん!」

「なんだァ、朝っぱらから…」



ふァァと欠伸をして私を高い所から見下ろす実弥お兄ちゃんは、ジロっと悪い目つきで私を一瞥した。

そんな目しても怖くないもん。

ガタイもよくて、幾つか顔に傷がある実弥お兄ちゃんだは、いつも周りからその見た目で近寄り難い存在になってしまう。

けど、本当は優しくて弟や妹達のことを常に考えてる、真面目な性格だって知ってる。

だから睨まれたところで怖くなんてない。

ニコッと笑って、その太い腕に自分の腕を絡める。

さも鬱陶しそうに簡単に振り払われるんだけど。



「おはよう!夜勤のバイトだったんでしょ?お疲れさま!実弥お兄ちゃんが来るの待ってたんだ!」

「…チッ、玄弥のヤロォ」

「ねぇ、来週の月曜日、何の日か覚えてる?」



私の言葉に、「あァ?来週?」と頭を掻きながら考えるのは一瞬で、帰ってきた言葉は私の気持ちをいとも簡単に沈めた。



「そういやぁ…」

「うんうん!」

「燃えるゴミの日だったかァ」

「はぁ?違う!いや違わないけど…ねぇ!」

「それよりお前…その顔、」

「え!?気づいてくれた?」

「あぁ、似合ってねぇぞ。ボタンも開けすぎだ」

「……」

「まだまだガキだなァ」



ククッと笑いながら、私の頭に大きな手をポンと置くと、「誕生日来たところで、早々に色気は出ねェぞ」と手をヒラヒラさせながら玄関を開けて、私の顔も見ずに行ってしまった。

覚えてるんじゃん、誕生日。

嬉しい反面、朝から頑張ったメイクを否定されてズシンと心が重い。

毎年誕生日は何だかんだで祝ってくれてた。

だから忘れられてるなんてことはないと思ってたけど、大学三年になって、玄弥の学費のためにバイトも掛け持ちし始めた実弥お兄ちゃんはかなり多忙。

だから、忘れられてるかもって。

でも、実弥お兄ちゃんは分かっているんだろうか。

今年の誕生日で…16歳になるんだよ。

もう約束なんて、覚えてないのかな。

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