その愛に触れたなら01


藤の花の家紋は、過去に鬼狩りに助けて貰った恩があり、鬼狩りが立ち寄った際には無償で衣食住を提供するという証でもある。

怪我をしていれば長期に渡った滞在になることもあり、割と裕福な家庭が多い。

ゆき乃もまた、その家に産まれてその生活がごく当たり前だった。

鬼の存在は聞いていても見たことがない。

今は亡き祖父から聞いていただけで、その姿形は想像でしかなかったけど、その残忍さ、怖さは想像をしただけでも身が震えたと、幼い記憶でも鮮明に覚えていた。

それに加え、大怪我ではないにしろ負傷してこの家にやってくる鬼殺隊の手当をしていれば、その記憶が薄れるなんてことはなかった。

ゆき乃はそんな隊士達の力に少しでもなれたらと、自ら進んでその手伝いを勝って出た。

上下に兄弟が居る為か、世話焼きでもあり甘え上手であったゆき乃は、どの隊士からも快く受け入れられていた。

ゆき乃自身、この仕事が楽しいと思っていた。

仕事というより家事の延長のようなものだが、それでも自分の祖先を救ってくれて、また今も尚自分達の為に戦ってくれている隊士達の力になれてると感じられることが喜びでもあった。

回復をして「ありがとう」とこの家の門をくぐって出ていく姿を見ることが、ゆき乃にとっては生き甲斐だった。







「夜分に失礼する!」



突然響いた大声に急いで玄関へと向かったゆき乃は、声の主の前で膝をつくと深々と頭を下げた。



「おかえりなさいませ。どうぞご無事でいらっしゃいました」

「うむ!任務に向かう途中なのだが、先が長いので今夜はこちらで休ませてもらいたい!いいだろうか?」

「勿論でございます。では、お部屋へ」



声の主は、炎柱の煉獄杏寿郎だった。

いや、ゆき乃もその家族も声だけでそれが誰だか分かっていた。

煉獄の声は家中に響き渡るほど大きいのだ。

ゆき乃も最初は驚いたが、背筋がピンとなるようなその声はいつ聞いても暖かいと心の中で思っていた。

柱ともなる御方に、家主が挨拶をしない訳にはいかない。

その為、寝間着だった父親も急いで着替えて、ゆき乃が煉獄を部屋へと案内するタイミングで挨拶に訪れた。

食事の用意がいるか、とゆき乃はお茶を用意しながら座ったままの煉獄へ話しかける。



「うむ!軽い食事をお願いしたい!」

「承知致しました。では握り飯とさつまいもの味噌汁にいたしましょう」



煉獄の好みを把握していたゆき乃の言葉に、常に大きく見開かれている煉獄の瞳がゆき乃にグッと向いた。

余計な事を言ったかと思ったゆき乃だが、その瞳も返事も暖かかったので、安心してお辞儀をして部屋を出ようとした。

途端に、「ゆき乃、と言ったか?」と話し掛けられ慌てて姿勢を正す。

はい、と三つ指をついて煉獄の方を向いた。

名前を覚えられていた事に驚いて、心臓は酷くバクついている。

なにか粗相をしてしまったのだろうかと、慌てて言葉を繋いだ。



「煉獄様、申し訳ありません。私何か、」

「俺は君が作ったさつまいもの味噌汁が好きだ!多めに入れてくれ!」

「え?」

「よろしく頼む!」

「は、はい!」



予想外の言葉に、ゆき乃の緊張は高まるばかりだ。

すべての食事をゆき乃が作っている訳では無いが、確かに以前、煉獄が泊まった時に他愛もない会話の中でそれを話した記憶がある。

その些細なことも名前も、覚えていてくださった。

その事実と煉獄の言葉が木霊して、台所へと向かったゆき乃の顔は真っ赤だった。

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