どうして。

どうして。

何度も頭の中で繰り返した言葉は、もう今のわたしには何も届かなかった。それ程に、麻痺していた。

自分の人生にどれだけ悲観しても、声を上げても、誰も助けてはくれなかった。

わたしがこの世に生まれた意味さえ、無かったと思う。



幼い頃に男に逃げた母親。

わたしに当たり散らし殴る父親。

借金返済のためにわたしを売ろうとしている養父母。

弱味につけ込んで肉体関係を迫ってきた教師。



何度死にたいと思ったか分からない。でもわたしにはその勇気もなかった。

高校卒業と同時に、自分の体が借金返済に当てられると会話を盗み聞いて知ったあの日から絶望的になり、それと同時に湧いて出た怒りが、唯一わたしを動かしていた。

引き取ってもらった恩から、一切反抗なんてしなかったわたしは、卒業まで何も知らない振りをして、従順に生活していた。

卒業おめでとう、と涙を溜めて見送る養母に吐き気がしたけど、それを堪えてわたしはもう二度と戻らない家を後にした。

予め用意していた荷物を駅のコインロッカーに取りに行く。

きっと帰らないわたしに憤慨するだろう。返済の当てがなくなったのだから。

ザマーミロ。




わたしはただ、自由になりたかった。

過去に縛られず誰も知らない場所で、せめて死ぬ前に、普通に生きてみたかった。

ただ、それだけだった。







騒々しくサイレンが鳴る音を遠く感じた。

視界に入る、人が行き来する脚を、何故かわたしはずっと見ていた。

動かそうと思った体は、一切動かない。

誰かがわたしに大丈夫かと声をかけているけど、それに答える事もできない。


――あぁ、わたし、死ぬのか。


自由を手にしようとしたばかりに、事故に合うなんて。

わたしの人生は、本当に意味がなかった。本当に、呆気なかった。

死に直面すると走馬灯のように思い出が流れるという。

ただ、わたしに懐かしむ思い出なんてないからただ死ぬだけかと思ったけど……ふと、遠い昔の記憶のようなものが脳裏に浮かんだ。

すでに忘れていたのか、奥に仕舞込んでいたのかは分からないけど、もう何十年も思い出したことのない、生き別れた兄の顔だった。

確か、兄は施設に入ってすぐに里親に引き取られた。

殴られるわたしを庇ってくれたような気もする。でも、ほとんど思い出せない。

今、どうしてるんだろうか。

死ぬ間際に思い出すなんて。




もう少し、生きたかったな。

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