ゆき乃の気持ちを現すかのように、月曜日は朝から大雨だった。

実弥と顔を合わせたくないと思いながらも、休むわけにもいかずに重たい体を動かした。

携帯の電源を落としていたので着歴には残っていないが、何度も実弥がゆき乃に連絡をしていたことがメッセージに残されていた。

ゆき乃は何と返していいか分からず、そのまま月曜を迎えてしまったのだ。

間違いなく、実弥は理由を聞いてくるだろう。

顔を合わせて上手く答えられる自信なんてないゆき乃は、朝から天元に助けを求めた。



「おいおい、そりゃあまた何で逃げたんだよ。そのまま不死川のとこに行きゃあ良かったじゃねぇか」

「でもでも…あの二人見てたら、モヤモヤっとしちゃって」

「モヤモヤする理由が分かんねぇ!だって、」

「わたしだって分からないよぉ!あ、ヤバい!こっち見てる…」



職員室に入ってコソコソと天元に話をしていたゆき乃だったが、実弥が入ってきて視線が合うと、すぐさま職員室を後にした。

天元の言葉を最後まで聞いてたらまた違ったかもしれないというのに。







生憎、実弥はずっと授業の受け持ちがあり、すぐにゆき乃と話がしたかったのだが、それが出来ずに朝からイライラしていた。

おかげで、小テストの点数が悪かった生徒に幾つもの怒声を浴びせていく。とばっちりもいいとこだ。

短い放課に職員室へ戻る間も保健室を覗いてみるが、外出中の札がぶら下がっていたり、開けても誰もいなかったりと、明らかに避けられてると感じた実弥は、気分がどん底だった。

何かしたんだろうか。手を繋いだことがいけなかったんだろうか。

反応も悪くなく、脈があるんじゃないかと思っていた矢先だったので余計にどうしたらいいのか分からずにいた。

そんな時、実弥に声をかけた一人の男。まさに天の声だった。



「ちょっとツラ貸せぇ、不死川」

「…あ?何だァ」



不良漫画さながらの睨み合いをする天元と実弥を、「ゆき乃の事だぞ」と冷静に静止する杏寿郎。

彼女の名前に目を見開く実弥は、「何かあったのかよ」と天元に詰め寄った。

素直にホイホイと情報を渡したくない天元だったが、ゆき乃の恋を応援している事には変わりないので、仕方なく状況を実弥に伝えた。

それでもやはり、実弥は何故ゆき乃が帰ってしまったのかと不思議に思った。



「だからよォ!勘違いしてんだって、お前と胡蝶のことを!前から仲良い風だったろお前ら。ずっとお前を気にしてたゆき乃が気になんのも分かんだろ!乙女心が分かってねぇなぁ!」

「おい宇髄。サラッとゆき乃の気持ちを言ってしまっているぞ」

「言っちまってたかァ?なら今のは忘れろ!兎に角、すぐに誤解を解けってんだ!地味に落ち込んでんじゃねぇ!陰気くせぇ」



色々と情報が飛び込んできて混乱していた実弥だが、最後にバシンと宇髄に背中を叩かれた。

ゆき乃の気持ちをこの二人は知っていたのかと思うと癪だったが、自分一人ではきっとゆき乃の気持ちを分かってやれなかったと思い、一応礼を伝えて職員室を後にした。

昼放課が終わる頃には、必ずゆき乃は保健室に居るはずだ。

その頃合を見計らって保健室に行くもやはり外出中の札が掛かっていたが、それなら中で待ってみようとガラッと戸を開けた。

誰もいないと思っていたそこに座る人物に、思わず目を見開いてしまう。何なら青筋まで立ってしまいそうだ。



「何でテメェがいんだァ?」

「……やぁ、不死川」

「呑気に挨拶してんじゃねェ冨岡!ゆき乃は、」

「不死川も一緒にどうだ?おはぎだぞ」

「はァァァァ?」



保健室の隅に置かれた休憩用の椅子に座っていたのは義勇で、しかも呑気におはぎなんて勧めるものだから、実弥の目がどんどん吊り上がっていく。

なんと間の悪い男なんだ、冨岡義勇。

今すぐにでもゆき乃と話したいと思っていたのに、と苛立ちが隠せない実弥に、「美味しいぞ」とおはぎを更に差し出す義勇。もう誰かこの男を止めてくれ。

そもそも、何故義勇がこの場所にいるのだと実弥は嫉妬した。こうして茶菓子を持って保健室で休憩するような仲だったのかと、胸の奥がザワついたのだ。

天元や杏寿郎と一緒に義勇も彼女といる時があるのは知っていた。だからこそ、なかなか距離を縮められずにいたのだから。こんなにまったりとした雰囲気で一緒に過ごしてるなんてズルすぎんだろ。

実弥が一人モヤモヤしている中、悠長におはぎを食べている義勇を睨んでいると、ガラガラと戸が開いて、「義勇先生、いつものお茶売れきれでしたー」と甲高い声が聞こえてきた。

ペットボトルを抱えたまま入ってきた彼女は、実弥の存在に気がつくと、それを床に落とした。



「実弥…先生……」



実弥を見て泣きそうな顔をするゆき乃を見て、胸がズキズキと痛んだ。




(そんな顔しないで)

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