02.冷静沈着な男の子


「え、14歳なの?!ヤバ、いくつ年下よ……落ち着いてるよね、無一郎くん」



ラーメンを啜りながら、ゆき乃は途切れることなく無一郎に質問をしていた。

箸に手をつけていない無一郎に、「美味しいから、騙されたと思って食べてみて!」と笑いかけると、無一郎は恐る恐る麺を口に運んだ。



「……うわ」

「どうどう?」

「うん、おいしい」

「でしょー!お湯入れるだけなのにこの美味しさなのよ!」

「凄いね、なんか…」

「髪の毛邪魔そうだから、留めてあげる」



手元にあったヘアクリップで無一郎の髪を纏める。

ゆき乃は彼が嫌がるかと思ったが、されるがままの無一郎に母性なのか妙な感情が芽生えた。

座り直し、ラーメンを美味しそうに食べている無一郎をジッと見つめるゆき乃。

それから、核心をつく言葉を吐き出した。



「無一郎くんは、この時代の人じゃないのよね?」

「……たぶん。だって見たことないものばっかりだし…薄々感じてたけど」

「うん、私も。やっぱりタイムスリップってやつ?いつの時代なんだろ…刀もってるから戦国?」

「僕がいたのは大正。それに刀は御法度だったよ。でも僕がいた鬼殺隊は政府非公認だったから。ねぇ、おねーさん。喉乾いた」

「え?あぁ、ちょっと待ってて。お茶持ってくる……って!年上をコキ使うなぁ!それにおねーさんは辞めて!なんか悪いことしてる気になる…」


意味が分からないという顔をした無一郎だったが、世話になっているのだからと了承した。

お茶も受け取った無一郎は、ゆき乃を顎で使うくせにちゃんと「ありがとう」と礼は言う。

彼は食べ方も作法も綺麗だった。

ゆき乃がその姿に見とれていると、その澄んだ瞳が真っ直ぐに向けられる。

不覚にも高鳴ってしまった心臓に自分を殴りたくなった。

――中学生相手に、何してんだ私は!



「この時代に鬼はいないの?」

「いないよ…だって見たことも聞いたこともない」

「鬼殺隊って聞いたこともない?」

「うん、さっきググって…調べてみたけどヒットしなかったし」

「ゆき乃さんの言葉、よく分からないんだけど」

「ご、ごめんごめん!気をつける」

「頼むよ」

「ねぇ、なんでそんな偉そうなわけ?!私のが年上なんだけど!」

「あとすぐ大声出すの、うるさい」

「はぁぁぁ?!」



ゆき乃が声を上げた後、無一郎の表情が変わり、瞼に力の無かった瞳が鋭くなる。

無一郎が咄嗟に立ち上がり窓辺へと移動したのは一瞬で、ゆき乃が瞬きをするかしないかの間だった。

一点を見つめるように空を見上げた後、振り返った無一郎の表情は、その鋭さを和らげていた。



「ど、どうしたの急に」

「一瞬気配がしたんだ。鬼とは断定できないけど変な感じ。でも一瞬で消えた」

「え……何それ怖いんだけど!実は今でも鬼って居たりするわけ?!」

「いや分かんな、」

「むむむむ、無一郎くん…今夜は一緒に寝ようか」

「馬鹿なの?おねーさん」



縋るように無一郎にしがみついたゆき乃だったが、まるで変人を見るような目付きを向けた無一郎の視線に涙が出そうになった。

本気で馬鹿にしてるような顔だったからだ。

別に襲われるわけでもないが、そういう類の話が苦手だったゆき乃は少し震える声で「ご、ごめん」と手を離した。

深い溜め息と共に、無一郎の声が耳に届く。



「僕が元の世界に戻れるように手伝ってよ。この部屋に住まわせて。その代わり、もし本当に鬼がいるなら僕がゆき乃を守るよ。それでいい?」

「な、名前…」

「ゆき乃でしょ?」

「呼び捨て……」

「とりあえず、かっぷらーめん、食べるからそこどいてくれる?」



無一郎のその可愛らしい言い方に、ゆき乃は胸がキュッと締まった。

呼び捨てされようとも、扱いが雑であろうとも、得体は知れないけど、可愛らしい男の子との生活に、少しばかり気分が上がったのだった。

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