聖夜の温もり 01


 オフィス街に建ち並ぶ高層ビル。
 その一角にあるビルに入っている、キメツカンパニーは少し風変わりな人達が働いている事で有名だった。
 各部署に一人はいるというイケメン揃い。
 同じビルに入っている他社の女子からも人気がある程だ。
 派手な見た目も然ることながら、何故か皆体格が良く、一体どんな会社だと噂されるが、至って普通の会社なのだ。

 一之瀬ゆき乃は、このキメツカンパニーで制作部で日々仕事に励んでいた。制作部は同じ会社でもその部署の存在はあまり知られていなかったりする、言わば会社の裏方という存在だった。
 そんな会社の隅にある部署に出入りするのは、営業部や企画部といった、花形と呼ばれる人達だった。







「伊黒! すまないが納期を早めることは出来ないか? 先方が一週間早めて欲しいと打診してきた」


 フロア全体に響き渡るその声に、パソコンに向かいながらもピクリと耳が反応した。
 制作部の部長でもある伊黒さんが、黄金色を揺らして入ってきた彼に詰め寄り、いつもの如くネチネチ攻撃を仕掛けていく様子をパソコン越しに盗み見る。


「お前達営業部は、俺らを何だと思っているんだ? 元々急ぎの案件だろう。それなのに更に納期を縮めるなんて出来ると思っているのか? ただでさえ残業続きなんだ。それに一週間早めるとなると、納期は24日だぞ。その意味をお前は分かっているのか?」
「うむ、分かっている。だが年内納期が希望とのことだ。この埋め合わせは必ずする!」
「言っていなかったが、この案件は一之瀬が担当になった。前の奴が辞めたからな」
「よもや、そうだったか……」
「そんな顔をするな、俺も手伝う。責任者は俺だからな。俺だって甘露寺との約束があるんだ。次に急ぎ案件を放り込んできたら殺してやる。おい一之瀬、聞いてただろ、対応しろ」


 急に名前を呼ばれ視線を上げると、珍しく眉を下げた彼、杏寿郎が手を挙げた。残業が増えること間違いなしだけど、それでも今この瞬間は嬉しさが勝って、自然と顔が緩んでいく。
 自席へと戻る伊黒さんの代わりに、席を立って彼のいる所へ駆けるように向かった。


「ゆき乃、すまないな。残業させてしまう」
「ううん、仕事は仕事! 気にしなくていいです! 杏寿郎さんだって残業してるでしょ」
「そうだが……遅くなる日は、家まで送る。必ず連絡して欲しい」
「ありがとう」
「ゆき乃……」


 静かなトーンで名前を呼ばれれば、胸がドキッと高鳴っていく。伸びてきた手が頬に触れ、大きな瞳に見つめられて平常心でいろというのが無理な話だ。ここが会社じゃなければと思わずにはいられない。
 遠くで伊黒さんの舌打ちが聞こえた。
 杏寿郎の視線が動き、壁掛けの時計を見る。それからフロア奥に座る伊黒さんに向かって、「一之瀬は早めの休憩を取る! いいな?」と叫んだ。
 心底嫌そうな顔をしている伊黒さんだが、杏寿郎とは幼馴染みらしく、彼の言うことに文句は言うも、受け入れていることが多い。
 現に、わたしと杏寿郎のことに関しては黙認してくれている事が多かった。


「お昼、一緒に食べれるの?」
「俺も午後から外回りだ。夜は仕事でなかなか会えないし、過ごせる時は一緒に過ごしたいからな」


 彼は、時と場所を考えることをしない。
 真面目で素直で、思ったことをハッキリ言うその物言いは、わたしへ向けられる言葉も同じだった。
 会社であろうとなかろうと、頬が赤くり歯が浮つくような言葉を言ってくれる。
 それが、とても嬉しかった。


 

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