聖夜の温もり 04


 着飾ったワンピースが脱がされても、セットした髪が乱れても、そんな事はどうでも良かった。
 愛する人に触れられ、愛する人と呼吸を絡ませ、その体温に包まれる時間がこれほど愛おしいものなのだと、彼が教えてくれる。
 急かすわけでもなく焦らすわけでもない、彼の愛撫に酔いしれていく。


「ハァッ…ン、あッ…」
「気持ち良いか?」
「ンン、……気持ち良いッ…あぁッ!」
「声を抑えずともよい。もっと聞かせてくれ」
「杏寿郎さぁ、ん……好き、大好きッ…」


 普段はなかなか言えない言葉も、肌を重ねている瞬間は、彼の熱に解きほぐされて自然と言葉にできる。
 潤いの中を指で掻き分け、胸元に舌を這わせ、その先に刺激を送っていた彼に抱きつくように言葉を紡ぐと、口許を緩めて優しく笑った。
 汗ばむ身体が密着し、シワだらけになったベッドの上。
 唇を重ね、深まる口付けに、呼吸をするのも忘れて舌を絡め合った。


「もう限界だ……そろそろ、いいか」
「うん、きて。杏寿郎さんでいっぱいにして」
「可愛いな、ゆき乃は…… 」


 柔らかな唇が触れ、身も心も解れていく。
 彼の口付けに酔いしれていると、あてがわれた秘部から押し入る強い圧迫に息が止まりそうになった。
 思わず漏れた悲鳴めいた声に彼の動きが止まり、少し離した唇の隙間から、「大丈夫、力を抜いて」と優しい声が届いた。
 潤いの中を満たしていく心地よい圧迫感。
 それがゆっくりと擦れながら動くと、抑え切れない甘い声が、吐息と共に吐き出される。


「ゆき乃…ッ、」
「あッ、あッ、……ハァン…気持ち、い…」
「俺もだ……ッ」


 時間をかけてゆっくり愛し合いたい。
 お互いそう思ってはいたものの、久しぶりの温もりとこの特別なシチュエーションに、抑えていた欲が解放されて、求めるままに肌を重ねた。


「あ、あ……杏寿郎さ……好きぃ…」


 彼に腰を支えられ、向かい合って抱きしめながら腰を動かすわたしへと向けられる愛おしそうな視線。
 高鳴る鼓動に胸を震わせ、下から突き上げる律動と、舌で送られる胸へと刺激に、彼の肩にしがみつきながら声を上げ果ててしまった。
 敏感になっている胸の先を、真っ赤な舌が這っていく。
 その妖艶な姿を、滲んだ視界で見つめながら、まだ続く律動に声を漏らした。
 ベッドに横になり、さらに身体を密着させて腰を送る杏寿郎に、わたしはただ声を上げるだけ。
 速まっていく律動と、時折甘く漏れる彼の声に、愛おしさが込み上げていく。


「ゆき乃ッ……もう、」
「うんッ…わたしも、ダメ……またイッちゃう」
「愛している、……愛しているぞ、ゆき乃」
「あッ、あッ……ああぁぁッ……ッ!」
「……クッ…」


 わたしの中でドクドクと脈打つのが伝わるほど、杏寿郎の鼓動も吐息も、いつもより激しかった。
 汗ばむ彼の髪を指で掻き分けると、その艶やかな表情を向け、優しい口付けを落としてくれる。
 在り来りな言葉だけど、幸せだと思えた瞬間だった。







 胸元で控えめに揺れるネックレス。
 あの日、杏寿郎がクリスマスプレゼントとしてくれたものを、肌身離さず付けていた。


「お、ゆき乃ちゃん! それ煉獄からのプレゼントだろ。似合ってるじゃん!」
「そうなんです! 凄く可愛くて毎日付けてるんですよ。仕事中もニヤついちゃいます! あ、仕事はちゃんとしてますけど!」
「珍しく饒舌じゃねぇか。いいねぇ恋する顔は」
「へへ、ずっと恋してますよ杏寿郎さんには! 宇髄さんも彼女にプレゼントしたんですか?」
「そりゃ勿論だ。俺はもっと派手なものだけどな! ここだけの話だけどよ、アイツすげぇ悩んでそれ選んでたんだぜ? 愛されてんなぁゆき乃ちゃん」
「そう、なんですね」


 企画部の宇髄さんは恋愛相談をしやすい人だった。
 つい色々と喋ってしまうのだが、思わぬ彼の情報を耳打ちされ、わたしの為に悩んで選んでくれている姿を想像して顔に熱が集中していく。
 ちょうどその時、杏寿郎がフロアに入ってきて、わたしと宇髄さんを見て目を見張った。
 噂をすれば、と笑いながら離れる宇髄さんに、「近いぞ」とムスッとしながら言う彼に、キュンと胸が鳴る。
 それを分かっているであろう宇髄さんがニヤニヤしながら杏寿郎に何かを耳打ちして、「じゃ! また納期連絡待ってるなぁ」と手をヒラヒラさせて出て行った。
 少し顔が赤くみえる杏寿郎は、ポリポリと頬を掻きながらやってきて徐ろにわたしの手を握りしてた。
 会社でも隠さずものを言う彼だけど、こうして触れ合ってくる事は珍しく、ドキンと心臓が跳ねた。


「すまない」
「え? どうしたんですか?」
「宇髄に嫉妬をしてしまった……二人の距離が近くて焦った。別に今までと変わらないと言うのに、ますます君への想いが強くなっていて……嫉妬深くなりそうだ」
「……杏寿郎さんてば…」


 大人げない、と項垂れる彼がとても愛おしい。
 嫉妬したことを隠さずに伝える杏寿郎は、真っ直ぐ過ぎるくらい正直で、いい所も悪い所も隠さない彼をとても素敵だと思った。
 周りを見渡し、衝立で誰からも見えないのをいい事に、少し背伸びをして彼の頬に唇を寄せた。


「わたしは、杏寿郎さんだけですよ。これから先何があっても、杏寿郎さんのものです。でも……嫉妬してくれて、ちょっと嬉しいです」


 彼の耳元でそう囁く。
 毛先の色と同じくらいに赤くなるその耳に、好きだという想いが強くなる。


「よもや……今夜も、君を離したくない」


 もっともっと、好きだと伝えたい。
 もっともっと、愛して欲しい。
 この情熱的な人を好きになったわたしは、この先もっともっと、彼を好きになると思う。
 心に灯った恋の炎は、消えることはないだろう。



〜完〜

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