物音で、深い眠りから意識が覚醒する。
でもまだ夢の中から抜け出せない。
部屋の外から聞こえる足音が、だんだんと近づいて来ているのも分かってるけど、目を開けられない。
ガチャッと…静かに開けるなんて配慮もない勢いでドアが開いた時も、私はまだ眠っていた。
「ハル〜」
私を呼ぶ、少し鼻から抜けるような優しい声が心地よい目覚ましになる。
だけど未だに瞼を上げないのは、その気配が近づいてるのが分かったから。
ギシっと私の腰辺りのベッドが少し沈んで、私の髪をスッと撫でる。
近づく体温も呼吸も指の感触も、目を閉じているから余計に敏感に感じ取れた。
目を閉じてても感じる視線。
そろそろ、だなんて思ってるのに望んでるものが与えられなくて、凄く焦らされてる気分になった。
だから――――
「起きてんじゃん」
――――耐えられなくなって薄目を開けたら、私を至近距離で覗き込む夏輝がニヤッと笑った。
目を開けて、最初に見る景色に夏輝がいると幸せになる。
私が寝顔を見るのもいいけど、こうして私を見てくれてる夏輝を見ると、胸の奥がキュンとする。
「オレ今日昼から出るから、朝ご飯一緒に食べようと思って」
「…う、ん」
「だから起きて?」
「……」
「寝たフリすんなよ」
わざと目を閉じた私に、夏輝が笑いながらそう言ってペシッとオデコを叩いた。
それでも私が頑なに目を閉じていたら…――――柔らかい感触が唇に触れる。
待っていたものが届いて、唇を重ね合わせながら、思わず口許が緩んだ。
「何笑ってんの」
「ううん」
「もう起きた?」
「あ、まだだよ!」
目もバッチリ開いてるし声もハッキリしているのに、この期に及んで「起きてない」主張をする私。
寝たフリをする私に、夏輝は何も言わずに…もう一度私の唇を塞いだ。
唇を這う舌がニュルっと私の口内に入ってくる。
上顎を舌先でなぞられ、ゾクッとした感覚に身体が反応する。
醒めたはずの意識が、眠気とは違う甘ったるい世界へと誘われていく感覚がして、脳がピリピリと微かに痺れた。
「起きた?」
「起きたけどぉ…」
「シたくなった?」
うん――と、答える前に反応したのは私のお腹。
グウっと音を立てて鳴った私のお腹を一瞥した夏輝は、「先に飯にしよ」と私の腕を掴んで引っ張った。
そんな気分だったけど、食欲には敵わない。
だってだって、さっきから美味しそうな匂いが寝室にまで届いてるんだもん。
夏輝が作ってくれた美味しい朝ご飯。
「仕事、お昼からならもう少し寝てれば良かったのに」
「勿体無いじゃん」
「え?何が?」
「ハルと一緒に朝飯食える日なんてそうないんだし」
さも当然のように、自分で作ったオムレツをバクっと食べながらそう言った夏輝。
何だか…胸の奥がジワリと熱くなった気がした。
私との時間を大切にしようとしてくれてる夏輝が作る朝食には、私への愛情がたっぷりだ。
「ねぇ夏輝」
「ん?」
「美味しい」
「誰が作ったと思ってんの」
今度は私が、夏輝の為に愛情たっぷりの夕飯を作ろう。
「ねぇハル」
「なに?」
「食べたらさっきの続きね」
そう言って、ニヤッと目を細めて笑う夏輝。
その前に私が食べられちゃう!?
なんてね。
End