もうすぐ日付が変わる時刻。
玄関を開けると廊下の電気が点いていた。
だけどその先のリビングは暗くて…すぐに寝室で寝息を立ててる姿が浮かんで、口許が緩むも少し残念な気分になった。
ちょっと頑張って早く帰ってきたつもり。
だから、出来れば言葉を交わしたかったなぁ、なんて。
「ただいまー……う、おっ!」
もちろん誰もいないと思ってたリビングに入ってすぐ、目に飛び込んだ姿に正直心臓が飛び出たかと思った。
声ではそんなだけど、すげぇビビった。
窓のカーテンを全開に、足の裏を合わせて胡座(あぐら)をかくような…まるで瞑想してるような姿勢のゆき乃さんが窓際にいた。
電気も点けずに、キャミと短パン姿で。
しかも風呂上りなのか…まだ微妙に濡れた髪をルーズに纏めてる。
スッと背筋を伸ばしてるその後ろ姿は、なんていうか…
「ゆき乃さん、どうかした?」
月明かりに照らされてるゆき乃さんに、ドキリと胸が鳴った。
それを隠したまま鞄を適当に置いてゆき乃さんに近づく。
ゆき乃さんは俺の気配に気付いて閉じていたであろう瞼を上げると、「おかえり」と微笑んだ。
「何してんの」
「んー…女子力あげようかなって思って」
「は?」
「月の光浴びると、フェロモン上がるらしいじゃん」
俺の彼女さんは、たまに意味不明な事を言う。
単に俺が理解できてない事もあるし、聞いたことあるものもあるけど…変な所に着眼することが多い。
それがミステリアスで惹かれた理由でもある。
付き合って一緒に住んでる今でも、俺はまだ完全に彼女の事を理解できてないと思う。
「それ何情報なの」
笑いながら、まだ動かないゆき乃さんの後ろに座って、そっとゆき乃さんのお腹に腕を回した。
こうしてゆき乃さんと顔を合わせて喋るのは久しぶりで。
加えて風呂上りでうなじを見せてる、そしてキャミ姿のゆき乃さんを目の当たりにして触れたい衝動に駆られた。
ゆき乃さんの肩に顔を乗せて、チュッとその剥き出しになってる素肌にキスをする。
「テレビでやってた…気がする、たぶん」
「超アバウト〜」
「だからこうして、試してるの」
「何で?」
「イイオンナでいたいから」
「それは俺のため?」
ギュッと回してる腕を強くしたら、漸(ようや)くゆき乃さんが俺の方を向いてくれた。
月に照らされたゆき乃さんの顔はすごく綺麗で、笑った唇の赤さが際立って…――確かに、効果的かも。
体を少し動かして、その唇に触れる。
優しく触れただけのそのキスは、月から丸見えで…何だか神聖なキスみたいだった。
「あのさ、ゆき乃さん」
「なぁに?なっちゃん」
「そのテレビ俺も見たけど…」
「でしょ!」
「満月の、って言ってた気がするよ」
目を見開いたゆき乃さんはチラッと窓の外を仰いだ。
…今日は綺麗な半月。
彼女のミステリアスの大半は、単なる抜けてる天然だったりするのは付き合ってから知った事実。
「なぁーんだ、違うのか」
「ゆき乃さん綺麗だから大丈夫だよ、んなことしなくても」
「ま、いいや」
ニコッと口の両端を上げて笑ったゆき乃さんは、体勢を変えて俺の首に腕を回してこう言った。
「月明かりに照らされるなっちゃん、堪能させてよ」
彼女はそっと、俺をラグマットの上に押し倒した。
月の光が真っ直ぐ伸びて俺達の影をつくる。
そのシルエットがそっと一つに重なった。
「マジで綺麗だよ、ゆき乃さん…ンッ」
「なっちゃんも綺麗よ」
「あ、待って!そんな動かない、で…ッ」
「あッ…ん、可愛い…夏喜」
いつもより激しいのは、やっぱり月光浴のおかげだったりして―――。
End