「え?休み?」
「はい。熱が下がらないみたいで昨日から休んでますけど…颯太さん聞いてませんか?」
黙る俺を不思議そうに見るハルちゃん。
まぁそうやんな…なんで?ってなるよな、普通。
彼女が熱出してるのに、なんで彼氏の俺が知らんねんっちゅー話や。
昨日も今日も、ゆき乃さんとは普通にLINEでやり取りしていた。
だからてっきり…というより当然仕事をしてると思って、たまたま事務所に寄る用事があったから、ちょっと驚かしたろうって思ってLINEをせずにそのまま顔を出した。
事務所で事務スタッフとして働くゆき乃さん。
メンバーや一部の人は知ってる俺達の関係を、事務所スタッフとして唯一知っているハルちゃんから聞かされた事実は、俺に軽いショックを与えた。
だからきっとそんな顔してたんやと思う。
「あ!きっと…颯太さんに心配かけたくなかったんですよゆき乃さん。だから黙ってたんだと思います」
慰めのような言葉に苦笑いしか出来なくて、「ありがとう」とお礼を言うと慌ててポケットからスマホを取り出して耳に当てた。
しばらくのコール音のあと、聞こえてきたのはゆき乃さんじゃない機械声。
チッと心の中で舌打ちをすると、急いで駐車場に向かった。
ピンポーン…――――
虚しく響く呼び出し音に反応する気配がない。
もう一度押そうかと思った手を止め、合鍵を差し込んだ。
いつもこの家に来る時は、ドアを開けてもらいたくてわざと呼び出していたから…もらって初めて使う合鍵。
ガチャリと無機質な音を立てて中に入ると、いつもとは違うゆき乃さんの空気が漂っていて。
寝室のドアを開けると、苦しそうな寝息が聞こえてきて…近づくと、布団をしっかりとかぶったゆき乃さんが頬を赤くして眠っていた。
ゆき乃さんの顔を見たことで、事務所を出てからずっと心にあった心配と焦りの気持ちが無くなって、安心からかドッと疲れが出てゆき乃さんが眠るベッドに腰を下ろした。
一人で寝込んでる時なんて、気持ちが滅入るのに。
なんで…言わへんかったんや。
布団の中に手を入れてゆき乃さんの熱い手を握ると、「ん…」とゆき乃さんが声を漏らして重い瞼をあげた。
「そう…た?」
「うん」
「え、何で…」
「こっちの台詞や、何で言わへんねん…ハルちゃんに聞かへんかったら気づかへんままやったやん、ゆき乃さんが苦しんでんの」
「……」
「アホやなぁホンマ」
熱のせいなのか分からないけど、ゆき乃さんの目は潤んでる。
空いてる手でポンと頭を撫でると、安心したように目を細めた。
ゆき乃さんが俺に迷惑かけたくないとか、負担にならないようにって思って…自分が寝込んでることも言わへんかったのは分かってる。
もともと気を遣う性格やし、それ以上に俺の仕事のことを気にしてるって。
でもな――――。
「なぁゆき乃さん……ちゃんと言うてぇや?」
「…え?」
「気を遣えるのはええ事やし、俺もそんなゆき乃さんに助けてもらってる事もあるけど…でも…苦しい、辛い、寂しい、助けて欲しい…――――我慢せんと言うてや俺に。気づかへんかった俺もあかんけど…」
「颯太…」
「たまには頼ってや?」
「……」
「俺が年下やから?頼りない?」
「ううん、そんな事ない」
「ほんなら…一人で抱え込まんと、ゆき乃さんの心に溜まってるもん俺にも預けてや」
ポンと撫でると、俺が握ってる手をゆき乃さんが握り返してきて、
「…颯太に、会いたかった…一人で寂しかった」
本音と一緒にゆき乃さんの目尻から涙が一筋溢れた。
思わず布団ごとゆき乃さんを抱きしめる。
「颯太ダメ…離して」
「なんで?」
「あたし二日お風呂入ってない」
「そんなんええわ」
「風邪うつっちゃう」
「…もう何も気にせんと、ゆっくり寝とき?俺がそばにおるから」
ゆき乃さんの安心した表情に、俺もやっと心が落ち着いた。
もっと強くなろうと思う。
ゆき乃さんが周りを気にせずに、俺を頼れるように――――。
End