恋のダンパ


「ゆき乃ちゃん、俺と踊らない?」


私の前に膝まづいて私の手を取る。

私の、好きな人――――。




私の学校には珍しいイベントがある。

体育祭文化祭が行われるこの時期、その後夜祭としてダンスパーティーが開催される。

アメリカ育ちの先生からの提案で数年前から行われているそうで、その行事を楽しみにしている人は多かった。

ハロウィンも近いからコスプレしてる人が多くて、それでも私は綺麗なドレスを着て、好きな人と踊ることにずっと憧れていたんだ。


「私、ダンパで好きな人と踊るのが夢なんです!」


そう、何度も黎弥先輩の前で言っていた。

誰が好きとかそういう確信的な言葉は言ったことはないけど、態度で黎弥先輩への想いを伝えていて…気づいて欲しいのが乙女心。

一つ上の黎弥先輩は、同じ委員会で親しくなった。

それから先輩が入ってるダンス部に顔を出すようになって喋るようになって…――――私は黎弥先輩に惹かれていった。

私を可愛がってくれてる黎弥先輩。

でもそれが私と同じ気持ちのものなのかは分からなくて、知りたいようで知りなくないような…そんな気持ちで。

だから、今年のダンパに賭けてみたんだ。

もし先輩から誘われたら…――――告白しようって。


「もしかして、もう売約済?」

「…たった今…」

「え!?マジで?」

「黎弥先輩に」

「あは!良かった」


そう言って綺麗な歯を見せて笑うと手を取って立ち上がる黎弥先輩。

会場はいいBGMが流れていて、みんなは思い思いにダンスをしている。

少し薄暗い会場にカラフルなライトがあちこちで照らされていて…それでも黎弥先輩の顔は私にはハッキリと見えていた。


「可愛いね、ゆき乃ちゃん」


セットした髪に触れる。

黎弥先輩の指の感触に胸がドキッとする。

さっきからドキドキしてるのに…心臓破裂しそう。


「黎弥先輩も、素敵です」

「そりゃバッチリ決めてきたもん!」


私の手を引いて腰に手を当てると、リードしながらクルクルと私を音楽の波に乗せてくれる黎弥先輩。

私はただ、それに身を任せているだけだった。

黎弥先輩との距離の近さに、それしか出来なかった。


「黎弥先輩、やっぱり上手い」

「んなことないって!ペアダンスなんて初めてだっつーの」

「え、じゃあ去年は?」

「去年は夏喜達とグループ組んでステージでやってたから…俺のペアはゆき乃ちゃんが初だよ」


ニコッと笑うと、私をクルッと回して片腕で引き寄せる。

自然と回れた私はそのまま身を任せていたら…黎弥先輩の身体に密着してた。

そこで、音楽の曲調が変わった。

今まで少しスローだったものが、激しめの曲に変わって…まるでクラブに様変わりしたみたい。

あ、終わっちゃった。

そんな気持ちで身体を離そうとしたら、腰に回った黎弥先輩の手がそうさせてくれなくて…


「黎弥先輩?」


大きな音にかき消されないように声を出したら、耳元で囁く少し低めの黎弥先輩の声。


「知ってる?このダンパのジンクス」

「え…」

「初めて一緒に踊った人と、恋人になれるって」


初めて聞いた、そんなの。

私の初めてって…――――


「なってくれる?俺の恋人に」


顔を少し話して私の顔を覗き込む黎弥先輩。

私の気持ち、本当は知ってましたか?

伝わってた?

私の夢を叶えてくれた黎弥先輩は、ジンクスに乗せて告白してくるなんて…私と同じロマンチストなんじゃないかって思った。


「黎弥先輩…」

「答えはイエスだけだよ、ゆき乃」

「好きです…黎弥先輩大好き!」


知ってた――とは言わなかったけど、黎弥先輩が得意顔で私を抱き寄せた。

こんなに密着しててもみんなは騒いでて気づかない。

音楽と人の声とで埋もれる心音。

だけど、黎弥先輩の音もちゃんと私に届いてた。


「このまま抜けちゃう?」

「大丈夫かな?怒られない?」

「いーよ!この後このまま解散だし…それにもう少しゆき乃と居たい」


黎弥先輩の熱い手が私に触れる。

黎弥先輩の熱い瞳が私を捕える。


「お姫様、さらってっていい?」

「うん!」


黎弥先輩の熱い唇を私にください――――。



End

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