寂しがり


「ゆき乃〜!ゆき乃〜?」


遠くで私の名前を呼ぶカレ。

用事があって寝室にいた私は、「はーい!」と声を張って返事をした。

するとすぐにガチャッと扉が開いて――――


「あ、いた」


――――笑う訳でもなく怒ってる訳でもない、普通の表情でボソッとそう言った夏喜。

ドアノブに手を掛けたままジッと私を見つめていて。

それから、


「……え?」


何も言わずに扉を閉めた。

え!? 何なに?

ちょっと怖いんですけど!

てっきり用があるから私を呼んだと思ったのに何も言わなかった夏喜が気になって、新しいシーツを取り出すという自分の用事を放り投げてリビングへと戻った。


「なっちゃん?」

「ん?何?」

「え、何か用事あったんじゃないの?」


ソファに座ってテレビを見てた夏喜に近づいてそう言ったら、キョトンと私を見上げた。

何言ってんの?って顔してる。

まるで私が的外れな事を言ってるみたいな空気になってる。


「ないけど、別に」

「は!? さっき私呼んだじゃん!寝室来たじゃん!?」


え?私が変なの!?

そんな気持ちが先行してちょっと苛々が含んだ口調で夏喜に突っかかった。

それを何とも思ってないって顔して私を見つめる夏喜は、


「あー…」


私から視線を逸らして、手元にあったクッションを抱くように自分のお腹の上に置いた。

…なんか、分かっちゃったかも。

そう思ったけど何も言わずに夏喜の言葉を待った。


「何?」

「さっきまで台所いたのに、見たらいなかったから」

「…うん」

「どこにいんのかなって」

「…そっか、うん」


笑っちゃいそうなのを無理やり堪えたせいで、「ンフッ」と鼻から音が漏れた。

つかさず夏喜が、「何だよ?」と突っ込んでくる。

その顔はちょっとだけ不貞腐れてる感じで…――可愛い。


「別に?」

「言えよ」

「…寂しいなら言えばいいのに」

「寂しくねぇよ」

「シーツ変えるんだけど、一緒にやる?」

「テレビ見てる」

「手伝ってよ」

「……そこまで言うなら?」


立ち上がった夏喜は、思いっきり顔が綻んでいた。


「なっちゃん、ちょっと…」


腕を少し強く引っ張ると、体を屈めるようにして顔を近づけた夏喜。

軽く音を立てて唇をつけると、「なんだよ〜」と言いつつもニヤついて笑っていた。



真顔だと強面のカレ。

ツンが強くSだと思わがちなカレ。

実はすっごく――――寂しがり屋です。

でもそれは、私だけが知ってる秘密☆



End

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