「名前!ガムくれ!」
いつものようにお菓子をたかりにやってきたのは彼氏の丸井ブン太。
ごそごそとポケットをさぐったけど、それは見当たらない。そういえばさっき仁王にあげたっけ。
「今日は持ってないや。さっき仁王にあげたので最後。ごめんね。」
「ええー?!ってかなんで仁王にやるかなあ……。」
「しょうがないでしょ、ちょうど欲しいって言われたし。あ、飴ならあるよ。」
「じゃあそれでいい……いや、やめた。名前にやるよ。」
やるよっていうか、元々私のなんだけど…。
あと、その明らかに何か企んでいます、な顔は何なんだろう。本当に彼は分かりやすい。素直でいいことだし、そこが可愛いのだけれど。
実際に小腹が空いていたし、とりあえず見なかったことにして私は飴玉を口に入れた。
いちごミルクが舌の上で甘くとろける。
「なあ。」
「何?」
顔を上げた瞬間、私の唇にブン太の唇が重なった。
「ん、んん……っ。」
油断した隙に舌を割り入れられ、口の中をまさぐられる。生温かい舌が口内を這い回り、思考が停止しかけたところでブン太は唇を離した。
「は、はあ……なにしてんの……。」
よく考えたら道のど真ん中だ。幸い人通りはなかったものの、あとから恥ずかしさで一杯になった。
「飴、やっぱり食いたかったから。」
彼はそう言って口を開けて見せる。さっきまで私の口の中にあった飴が、ブン太舌の上に乗っていた。
「……それならそう言えばいいでしょ。」
おかげで心臓はばくばく鳴りっぱなしだし、顔がほてって熱い。外気の冷たさが気持ちいいくらいだ。
「仁王になんかやるから。罰だ、罰。」
罰がキスって。
飴をころころさせるブン太の横顔を見て、溜息をついた。
けど、罰になってなかったりして。
「なんだよ。」
「ううん。何でも。」
明日も飴を買っておくと言ったら、まんざらでもない様子で「あっそ」とだけ返ってきた。



back
top