……ん。
なんとなく、気配を察して目が覚めた。
俺はそんなに小さなことに敏感な方じゃない。跡部も岳人も宍戸も、みんなそう言うだろうなあ。もちろん、自分でもそれは認める。
でも、草木が擦れただけの音でも、なるべく静かに気配を殺しても。
わかるよ。君だから。
「ジローくん。」
期待してたんだ。君がまた来ること。
呼ばれたって目なんか開けない。俺は寝たふりを続けた。
こんな日が続いてる。
君は毎日、お昼になると俺のところに来る。
最初に来たのがいつなのかは知らない。
いつもの昼寝の時間に、君がこっそりきてることに気づいたのは先週だ。
びっくりしたよ。
薄目を開けたら、俺がこっそり大好きだった君が、隣で座ってたんだから。
でもごめんね。
こうして君の隣で寝たふりしてるのが楽しくなっちゃったんだ。
君の隣で、春の風を感じて、あったかい日差しを浴びて。
これが最高に幸せだったんだ。
だけど、今日はもっといいことを思いついた。
もしかしたら、君はもう来てくれなくなるかなあ。
でもきっと、そんなことないと思うんだ。
「ねえ。」
声をかけたら、君はびっくりして目を見開いた。両頬が真っ赤に染まる。
俺もちょっとドキドキしてるかも。
ちょっとじゃない。だいぶ。
「手、貸して。」
首を傾げて不思議そうな君。
素直に差し出された手を、俺は強く引っ張った。
「わっ!!」
バランスを崩した君が、俺の腕の中に倒れ込んできた。
ああ、やっぱり。
君の体温が触れたところから、温もりが溶け込んでいく。
背中に手を回したら、もっとあったかい。
体だけじゃなくて、胸か頭か、わかんないけど、全部、ぽかぽかする。
「こっちのほうがいいや。」
腕の中で、君が笑う気配がした。
君の呼吸が近く聞こえる。
早かった心臓の鼓動は徐々に緩んで、君のと重なった気がする。
じっと寄り掛かる君の重みと、柔らかい感触が俺を落ち着かせた。安心感はいつしか心地良い微睡みに変わっていき、ゆっくりとまぶたが落ちる。
君は何か言いたくてここへ来てたんだろう。
俺も言うことがあるんだ。
寝る前に伝えておくね。
「ねえ。俺、君が好きだよ。」
背中に君の手が回る。俺より小さい掌が俺の背中を優しく撫でた。
「私も好きだよ。」
その声を合図に、目を閉じた。
春の風より、おひさまより、あったかくて心地良い。
「おやすみ……」