眩しい。
薄目を開けると、カーテンから漏れる光でもう部屋は明るい。
時計を見ようと起き上がりかけたけど、それは叶わなかった。
……動けない。腰に回された両腕が私を抵抗できない力で縛り付けている。
「ジロー。」
こんな呼びかけで起きるわけがない。彼の眠りの深さには全氷帝テニス部が泣かされている。
特にこういう、私を抱きしめたまま眠った時のジローは厄介だ。
鼻をつまむとか、脇をくすぐるとか、下手に不快な起こし方をしようもんならさらにがっちり捕まえられて、あと1時間は動けないと保証できる。
あーあ。
今日は学校は休みだけど、ジローにはテニス部の練習があったはずだ。
まあ、昨日家に来た時点で行けるのかなーとは思っていたけど。跡部にこっぴどく怒られても、私は知らないよ。
黄色のたんぽぽみたいな頭に長いまつげ。なんて可愛い寝顔だろう。
ぷしゅー、すー……と規則的な寝息。
私が狭い中でもぞもぞ動くので、ジローは目が覚めたみたい。でも、まだ布団の中でじゃれていたいらしく、私の体をさらに引き寄せた。私は必然的にジローの胸に顔を埋めることになった。
かわいい顔して、意外なほどの力にびっくりする。なんだかんだ男の子だ。
「ジロー、苦しいよ。」
んん、と唸ってジローは腕の力を少し緩めた。深呼吸して酸素を取り入れると、反動で大きなため息が出た。ジローがよしよしと私の頭を撫でる。
やっぱり起きてるじゃん。
腕の中で見上げると、ジローはゆっくりと目を開けた。
「そろそろ放して。何か食べるもの用意するし。」
「むう……あっ、じゃあさ、ちゅーしてくれたらいいよー。」
甘えるような声でそんなことを言われたらドキドキする。へらへら笑うジローが愛おしくて、恋の熱にやられた私は完全に布団から出るのが惜しくなっていた。
「……あれ。しないのー?」
ジローは不満気に口を尖らせた。
「やっぱり、もうちょっとこうしてよ?」
自分からキスするのが恥ずかしくて、誤魔化そうと俯くと、ジローは私をもう一度ぎゅっと抱きしめ直した。
「じゃあ、ずっとこのままいられるように、捕まえててあげるしー。
名前ちゃん、柔らかくて気持ちいいんだもん。」
また甘やかしてしまった。まあ、いいか。
彼の香りと体温に包まれていると、また眠気がやってきた。
夢と現実の狭間で、彼が私の額にそっと口付けたような気がした。
なんて幸せなんだろう。
「おやすみ……。」