恋占い

憂鬱。
名前は深くため息をついた。それを見ていたのは隣の席の千石清純。何かと名前に絡んでくる、お節介な奴だ。
「どうしたの、名前ちゃん。浮かない顔してるね〜。名前ちゃんの今日の運勢、二重マルなのに。」
「二重マルねえ…。」
「特に恋愛運は今シーズン稀に見る絶好調だってさ。」
千石は嬉しそうにスマホの画面をこちらに向けた。よりによって恋愛運が良いとか。皮肉としか思えない。
「千石、そのサイト当てにしないほうが良いよ。外れてるから。」
「何でまた。」
「昨日さ、ついに見ちゃったんだよね。彼氏の浮気現場。
しかも逃げようと思ったのに、ばっちり目あっちゃって…。今日の放課後、呼ばれてるの。絶対別れ話だー。」
「まだ浮気続いてたんだ。それはまた大変だったね…。」
彼は少し困ったように笑った。
「けどやっぱり、この占いは外れてるかもね。…今日恋愛運が絶好調なのは、キミじゃなくて俺だったみたいだし。」
千石はうーんと眉間に皺を寄せながらスマホを触っている。そしてまたさっきとは別の画面を私に見せた。
「ほら、こっちは俺の恋愛運が絶好調!」
そんな彼の様子を見て、名前は思わず吹き出した。
「そんな信じ方ってありなの?」
「もっちろん。楽しく見るのが一番に決まってるじゃん。あ、こっちでも名前ちゃんも恋愛運良いみたいだよ。」
「そっかあ…。」
はしゃぐ千石を見ながら、そうならいいのにと名前はまたため息をついた。



放課後、名前は彼氏に指定された場所に来た。
二人の間には気まずい沈黙が流れる。
「あのさ。わかってるだろうけど」
「うん」
「別れよう、俺たち」
「…。」
「好きな人ができた」
「……。」
予想していたのに。こんなやつのために流してやる涙なんてないと思っていたのに、視界が潤んでくる。目に溜まった雫が零れ落ちる寸前、急に景色がひゅっと動いた。

「えっ……?」

足が地面から離れてる!っていうか、私宙に浮いて…。
そこでやっと、抱き上げられていたことに気がついた。
「…何で……。」
私を抱き上げた張本人…千石清純は、私と目が合うと清々しいくらいにかっと笑った。
「お姫様を助ける勇者登場、なんてね。」
「…何それ、笑っちゃうんだけど。」
頬が緩んで、抑止力を失った涙が自然と頬を滑り落ちた。
「んじゃ、そういうわけで。名前ちゃんは貰って行きまーす。ごきげんよう♪」
「えっ、おい…。」
戸惑う元彼を置き去りにして、千石は私を抱いたままさっさとその場を離れた。



千石は私を下ろすと、自動販売機で私の好きなジュースを奢ってくれた。植え込みの端に座って一口飲むと、気持ちが少し落ち着く。
千石は名前の前にかがんで、目線を合わせてくる。いつもへらへらしてるのに、今日はいつになく真っ直ぐに目が合った。
「名前ちゃん、俺と付き合って。俺なら、君を泣かせたりしないよ。」
「本気で言ってるの…?」
千石はまた、困ったように笑った。
「ひどいなあ。俺だって、隣の席だからってだけで助けに行ったりしないし、同情でそんなこと言わないよ。」
「だって、こんな都合の良いことって…。」
「じゃあ、おっけーってことでいいよね?」
彼氏の浮気に気づいた時から、千石にはたくさん相談に乗ってもらっていた。彼の優しさと居心地の良さの名前は何度も救われてきたのだ。
そうしているうちに、彼女は自分の気持ちが千石に向いていることを自覚していた。
千石は名前を優しく抱きしめた。名前はふとさっきの会話を思い出す。
「恋愛運、絶好調ってこういうことだったんだね。」
「そ。悪くないでしょ?」
千石は悪戯っぽく笑った。


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