いただきます。

名前がごはんを作るって張り切っているから、俺もうきうきで家にお邪魔した。だけど出迎えたのは泣き顔の彼女だった。

「精市ぃ…。」
「…何があったの?」

小さいこどもみたいに泣いている彼女。玄関先で立ったまましばらく頭を撫でていると、少しずつ落ち着いてきた。

「…で。これが例の魚なんだね。」

俺はキッチンで漫画みたいに真っ黒になったものを菜箸でつまみ上げた。名前はそれを見てまたしゅんとしている。どうやら色々失敗している間に時間が迫ってきて、焦りすぎて泣いていたらしい。彼女がまだ赤い鼻を啜る音がした。

「ごめんね、ごはん作るって言ったのに…。お腹すいたよね。何か買いに行こっか。」
「うーん、そうだね。お腹は空いたけど、それはもう少し後にしない?」

顔を上げ、首を傾げた名前の目尻にキスをすると、彼女は「ひゃっ」と声をあげた。

「ごはんより、君が食べたくなっちゃった。」

名前の泣き顔に煽られて、自分の中でいけない感情が首をもたげたのを自覚していた。おかしいな、こんな趣味は無かった筈なんだけど。君の泣き顔があまりにも…そう、美味しそうだったから。

名前をソファに連れて行って座らせたら「もう!」と怒った顔をしたけど、全然怖くない。だって抵抗する気ないのバレバレ。そのまま覆い被さってキスしたら…ほら、大人しくなった。

「じゃあ、頂きます。…なんて。」


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