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×××SS_dia(小湊春)

ダイヤのA 小湊春市 春市双子の妹設定


「もう良い! お父さんなんて大嫌い!!」

下の階から妹の悲痛な声が聞こえたと同時に、階段を駆け上がってくる音がした。携帯ゲーム機を机の上に置き、何があったのかと春市は席を立つ。自室のドアを開けた時、目を真っ赤に腫らした妹が駆け込んできた。春市の部屋に入るなり鍵を閉めろと声を張る。ドアの影から覗くと、後を追ってきたらしい父の姿が見えた。
閉めるか閉めまいかで迷っていると、ぐいと肩を引かれる。父が部屋の前までやって来た刹那、ドアを閉め、がちゃりと鍵をかけた。
激しくノックし開けろと父は言うが、妹はぽろぽろと涙をこぼし動こうとしない。春市は静かに息を吸うと、代わりに返事をした。妹と話し合う為、しばらく待っていてほしい――と。少し戸惑った声音が聞こえたが、春市の言葉を信じてくれたのか、父はゆっくりと階段を降りていった。
名前を呼び手をとると、ベッドの端に座らせる。その隣に腰掛け背をさすり、落ち着くのを待った。しばらくして涙は止まったのか、時折鼻をすする妹に、春市は話しかけた。

「何があったの? お父さん、怒ってたみたいだったけど……」
「……高校、青道に行きたいって言ったら……いきなり怒られた」

夕食を終え軽く家族で雑談をした後、春市は早々に部屋へ上がったが、その直後に進路の話になったらしい。春市は兄の亮介と同じ青道へ行くと既に告げており、了解も得ている。野球をするなら同じ厳しい環境のもとでと思っていたからだ。それに、しっかりとした夢もある。
二人に倣い妹も青道へ行きたいと伝えが、父は即反対した。何故かと理由を問うと、女の子なのだから心配だからだとのことだった。納得いかずに口論へ発展し、声を荒らげて二階へと上がり、偶然ドアの開いた春市の部屋へ駆け込み今に至る。
事情を聞いた春市は、なるほどなあ、と考える。父の言いたいことはわかる。女の子を一人寮に入れるのは心配なのだろう。それに、妹に夢があることを家族全員知っている。その夢を青道で掴むことは難しい。自身の夢を二の次に考え、兄二人の背を追い同じ高校へ進みたいと思って言ったのだろう。だからこそ父は怒ったのだ。
怒った理由を知らずに居る妹に、ねえ、と春市はやさしく問いかけた。

「将来、何になりたい?」

何だいきなりと顔に示しす妹に、教えてよ、と春市は気にせず言う。ふいと視線を逸らし、呟くように夢を答えた。それを聞き春市は続ける。

「それって、青道じゃないと叶えられないものかな?」

春市の言葉の意味を、唇を結んで妹は考える。程なくして頭を横に振った。自分でもわかってはいたのか、悔しそうな声で青道では逆に叶えることは難しいとも紡いだ。

「お父さんはそれをわかっていたから怒ったんだよ。自分の夢を捨てるなって」

きゅっと下唇を噛み、妹はぐっと膝の上で拳を握った。一呼吸置き、静かに頷く。父の怒った意図を、自身の伝えたいことを理解してくれたと悟り春市は目を細めた。

「……そういう春市は?」
「えっ?」

落ち着いた色で問われ、もちろんと春市は言う。

「兄貴と一緒に甲子園に行くこと」

そして――と春市は続けた。

「昔、約束したでしょ? 僕と兄貴の二人で甲子園に連れて行ってあげるって」

それが夢であり目標だと春市は結んだ。ぱちぱちと目を瞬かせ、妹はふっと息を吐く。とすっと春市の頭に手刀を落とすと、生意気、と一言。いつもの調子に戻ったのか、悪戯っぽく笑顔すると、ちくちくと毒舌で春市を責め始めた。しかしそれも束の間で、ぱちんと自身の両頬を叩くと妹は勢い良く立ち上がった。

「もう一度お父さんと話をしてくる。今度は、もっとちゃんと、話してくる」
「それが良いよ。話がまとまったら、また聞かせて」

こくりと頭を縦に振り、ゆっくりと歩き出した。がちゃりと鍵を開けノブを持つ。春市、と呼び振り返ると、今度はニッと歯を見せて笑った。

「あんたの夢、応援してあげる。だから絶対、わたしを甲子園に連れて行ってよね」

そう残すと、妹は部屋から出て行き再び話し合いをする為にリビングへと向かった。一人残された部屋で、春市はくすりと微笑んだ。


ありふれた笑顔が咲く刹那
(兄貴と二人で連れて行くんだ、絶対。だから……自分の夢と向き合って欲しい)
愛子||160811(title=空想アリア)

(2018/02/19/BACK)