なまえと沢村がチケット売り場から離れるなり、四人は急いで後を追った。入場券を買い、遠くで二人の姿を捉えながら水族館の中を見てまわる。キラキラとした、まるで別世界のような景色に知らずと心は弾む。
前ではなまえと沢村もテンションが上がっているのか、色々なものを見て触れてまわっている。ふと、隣に居たはずの降谷の姿がないことに気づいた。目で探していると、一人、大水槽の前に立っていた。なにやら話をしている御幸と倉持に恐る恐る声をかけ、降谷を指さすと、二人はあわてて連れ戻しに走った。
そうこうしているうちになまえと沢村はアトラクションの方へ向かう。さすがにアトラクションチケットまでは購入しておらず、大人しく待つことにした。その間に降谷は御幸と倉持の監視のもと、別の水槽を見てまわった。春市も誘われたが、近くに椅子に座って待っていると告げ、人心地ついた。
今日は何だかとんでもないことに巻き込まれたはずなのだが、楽しかったなと思う。みんないつも部活では子どものような行動をするなまえのことをからかったりしているが、本当は心の奥底から大好きなことがわかった。もちろん、春市もなまえのことが好きだ。ただそれは、恋愛感情ではなく尊い存在として。青道に入学し、野球部へ入部した時に一番最初に話しかけてくれたのはなまえだった。とても気さくで話しやすく、時折先輩だということを忘れてしまいそうになる。恐らくそれは春市だけではなく、沢村や降谷も同じことを思っているだろう。
そんな大好きな先輩がもし――、もしもの話だが、沢村のことが好きなのであれば、当然、応援をする。こんなことを言うときっと御幸や倉持達は怒るかもしれないが、なまえが幸せになるのであればそれを願わざるを得ない。
アトラクションを降り、ケラケラと笑ったなまえと猫目の沢村が順路に沿って再び水族館をまわり始めた。二人から少し距離を置き、春市は降谷達と合流をする。知らない魚等も展示されており、二人を見ていなければいけないはずなのだが、つい興味深く楽しんでしまった。特に降谷は瞳をキラキラとさせ、目を離せばすぐにどこかへふらふらと足を運んでしまうほどだった。
ライトアップされたクラゲがたくさん展示されているエリアへ入ると、突然二人は歩みを止めた。どうやら沢村が手洗いへ行くらしい。なまえは手洗い近くの壁に寄りかかり、携帯電話を取り出していた。
尾行がばれないよう遠くへ移動する。再び二人が歩き始めるまで、降谷はライトアップされたクラゲの水槽の前へ静かに向かった。その後をいつの間にか保護者となった御幸と倉持がついて行く。三人の背を苦い笑みを浮かべて見つめ、後についていると、唐突にズボンのポケットに入れていた携帯電話が震えた。震える時間が短かった為、メールか何かだろう。何気なく携帯電話を取り出し液晶画面に目をやるなり、春市はピシリと動きを止めた。
連絡はなまえからだった。
ふと、なまえの方に視線をやる。すると、ぱちりと目が合った。背中に嫌な汗を流しつつ再び携帯電話を見る。操作し、送られてきた文章を読む。

『全部バレバレだよ』

空気が変わったような気がした。急いで御幸達に報せようとした時、再び携帯電話が震える。慌てて液晶画面を見ると、またなまえから連絡が入った。

『ばらしたら怒るからね』

言葉を発しかけて唇を結ぶ。言えなくなってしまった状況に、春市はそっと携帯電話をスリープモードにしポケットに戻した。もう一度、なまえに顔を向けると何事もなかったかのように沢村と話をしていた。

「小湊、どうかしたのか?」

御幸に声をかけられ我に返り、何もないと首を横に振る。その時、あっ! と倉持が小さく声をあげた。倉持の視線の先を追い、春市と御幸も驚いた。なまえが沢村の腕にぎゅっと抱きついていたのだ。黒いオーラを醸し出す倉持に、落ち着けと真顔で御幸が諭している。まるでこちらに見せつけるような行動をするなまえに、春市は思わず苦い笑みを浮かべた。

(でも、憎めないんだよなぁ本当)

流石です先輩、と口の中で呟く。唐突に走り出した二人の後を、クラゲの水槽にはり付いている降谷の腕を引き急いで追いかけた。

愛子||170226