翌日、授業もすべて終わりグラウンドへと向かおうと鞄に荷物を詰め終えた時、ささっと傍にやって来たのは同じマネージャーの梅本幸子と夏川唯だった。既に御幸と倉持は教室を出ており残っている生徒の数は少ない。
二人はなまえを囲むと、どうだったのよ、と尋ねた。

「どうって、何が?」
「何が? じゃないわよ! 沢村とのデート、どうだったの?」

あー、となまえは声を出すと、別に何もなかったよ、と返す。そんなわけあるか! と幸子は突っ込んだ。なまえは昨日のことを二人にかい摘んで話した。
"偶然"、倉持と御幸達と駅で出会い、そのまま一緒に水族館へ行ったのだと結ぶ。そんな偶然があるのかと二人は驚いたが、そういうこともあるみたいだとなまえは笑った。

「あーあ、せっかく水族館のチケットまで用意してあげたのに……沢村と二人きりじゃなかっただなんて。残念」
「ごめんね、唯。せっかく福引で当てたのを譲ってもらったのに……」
「まあ、別に良いけどね。楽しんでくれたならそれで良かったし。むしろ、こっちが有難う。予定が立てられなくて、チケットをどうしようかなって思っていたから」

こちらこそ! となまえは改めてチケットの礼を言った。どういたしましてと唯は微笑む。

「にしても……沢村の何処が良いの?」

幸子の何気ない質問に、確かに、と唯も同意する。なまえは頭を横に傾け口を閉ざす。ほどなくして静かに答えた。

「真っ直ぐなところ、かな」

ぱちりと幸子と唯は目を瞬く。
入部当初から沢村の姿を見ているが、いつの間にか面白い後輩ではなく、何事にも真っ直ぐで真剣で、心の底から応援をしたい人に変わっていた。

「ほら、こんなこと話してないで早く行こう! 遅くなったらみんなに怒られちゃう!!」

きょとんとした色のままで居る二人に声をかけ、なまえは鞄を肩に提げると教室から颯爽と出て行った。二人は慌てて後を追う。
そっとなまえは指で自身の唇に触れた。昨日の、二人だけの秘密となったことを思い出し、自然と表情は綻んだ。
またいつか、今度こそ、二人で出かけられますように。心の中でそう願いながら、軽い足取りでグラウンドへと向かった。


blue kiss
(この気持ちを伝えるのは、わたし達の夢をすべて叶えてからでもきっと遅くはないはず――……だから、待っててね)

愛子||170417