「さ、わ、む、ら!」
「きょっ!?」
最後の言葉と同時に、卒業生の小湊亮介を真似て沢村の頭に手刀を落とす。どうも勢いが強かったのか、パンッという音が鳴り、あっ、と思わず声を上げる。ギギギッと首だけを動かし、沢村は振り返った。なまえはあわてて手を後ろに隠す。
「いきなり何スか……イジメですか……」
「違う違う! 勢いあまってつい」
てへぺろっと言うも沢村は信じていないのか疑いの色をしている。眉根を顰めながらも沢村はなまえに向き直った。機嫌を損ねてしまったかと内心焦るも、平静を装い接した。
「沢村、今から休憩に入るの?」
こくりと頷くも、沢村の眼差しはまだ疑いの色を出している。苦笑しそうになるも、実は探していたのだと告げると表情は戻り、俺を? と沢村は首をかしげる。いつも通りとなった沢村に、今日は何の日でしょうか? と問いかける。すると案の定、沢村は恍惚とした表情を浮かべるとビシッと親指で自身を指した。
「この私、沢村栄純という男が生まれた日! すなわち――誕生日です!!」
「そんな本日の主役である沢村栄純殿に献上したき品がございます!」
なんと!? と沢村は大きなリアクションを取る。内心、大きく笑いたいのをこらえ、隠していた物を差し出した。
「ハッピーバースデー、沢村!」
ぱちぱちと目を瞬く沢村に、早く受け取るよう促す。本当に驚いているらしく、おろおろとしつつも差し出された薄い紙袋をまるで表彰状を貰うかのように両手で、それでいて慎ましやかに受け取った。
「あのっ、ありがとうございやす!」
嬉しそうにはにかみ礼を言う沢村に、いえいえ、となまえは微笑む。さっそく中を見ても良いかと聞かれ、もちろんと頷いた。沢村は片手でプレゼントを取り出し、これは? と首をかしげた。手にしたのはビニールに入った、細長い、長方形の薄い何か。
「スポーツタオル。使ってくれると嬉しいな」
普段使っているタオルの一つがそろそろ替え時だった為、沢村にしては素直に有難かった。器用に封を切りタオルを広げてみる。ふわふわとしているが吸水性は良さそうだ。全体的に真っ白で爽やかさと清潔感を感じるが、端っこにワンポイントとして可愛らしい犬のイラストが添えられていた。
「この犬、沢村にそっくりじゃない?」
「どこが!?」
眉をキリッとさせた犬がピシッと背筋を伸ばしているイラストで、これのどこが自分と似ているのかと沢村はなまえに問い詰めるも、軽く笑ってあしらわれてしまった。ぐぬぬっと猫目になりながら、ふと紙袋の中にもう一つ、何かが入っていることに気づく。タオルと紙袋の中に入れると、もう一つのものを取り出した。
「……お守り?」
二つ目の贈り物は、お守りだった。"必勝祈願"という文字が金色の糸で縫われている。お守りから視線を上げた時だった。
なまえはそっと、沢村の手とお守りを包み込むようにして両手を添える。
「どんな大きな壁に当たっても、必ず乗り越えられるように。苦しい試合も、沢村と……みんなが勝てるように。勝ち続けられるように――」
ぎゅっと手を握り、そして、となまえは紡ぐ。
「必ずまた甲子園のマウンドで、沢村が投げられますように」
昨日神社でお願いしてきたの、となまえは恥ずかしそうに微笑み結ぶ。伝わってくる温もりに、願いに、沢村の胸はきゅっと甘く締め付けられる。ぱっと手が離れ、時間をとらせてごめんね、となまえは謝ると沢村に背を向けた。あっと思わず声を上げ、沢村は無意識になまえの腕をとる。なまえは振り返り、ちょいと首をかしげた。一瞬、言葉に詰まるも、心からの感謝を、沢村ははにかみながら唇にのせた。
「ありがとうございますっ。絶対にまた、俺がなまえ先輩を甲子園に連れて行きます!!」
瞬間、大きく瞳を開くも、すぐになまえは満面の笑みを浮かべた。
ときめけ、恋ごころ
(誕生日おめでとう!)
愛子||170521
(titile=確かに恋だった)