仕事がひと段落つき、マネージャー達だけで一足先に休憩に入ることとなった。もちろん監督である片岡鉄心からも許可を貰っている。
食堂で四人だらけていると、後輩の吉川春乃は最寄のコンビニへ行ってくると言い席を立った。残ったなまえと、同級生の梅本幸子と夏川唯は他愛のない会話をする。それでも暇をもてあましたのか、なまえは来るときに買ってきたファッション雑誌を鞄の中から取り出しテーブルの上に広げた。話しながらページを捲り、時折、尋ねられれば軽く相槌を打ち従う。
ふと、あるページを開いた途端、なまえの手は止まった。開いているページはブライダル特集で、女性なら一度は夢見る内容となっている。目を引いたのはカラーを飾る海外男女の純白のドレス、タキシード姿で、まるで姫と騎士をイメージさせた。
画になっているなぁ、と心の中で呟く。話すのを止めてじーっと見ているものだから、幸子と唯は顔を見合わせふっと肩をすくめた。
そんな時、唐突に食堂の扉が開いた。のんびりとした中にやって来たのは沢村栄純だった。誰かを探している途中らしく、きょろきょろと辺りを見回している。沢村に気づき、お疲れ様と声をかけると、元気良く挨拶が返ってきた。
話もそこそこに、御幸一也を見なかったかと沢村。先輩なのに呼び捨て、と三人は思ったが見ていないと素直に答える。球を受けて貰いたいのだがどこを探しても居ないのだと沢村は言う。猫目になる沢村とは逆に、逃げたな、逃げてるな、となまえ達は御幸の性格を読んで口の中で呟く。
ふいに何かを思いついたのか幸子はポンッと手を打った。御幸ならあの場所辺りに居るのではないかとなまえからアドバイスを聞いている沢村をちょいちょいと手招きする。首をかしげつつ靴を脱ぎ、沢村はなまえの隣へとやってきた。
すぐさま陰で、幸子は唯にある指示を出す。唯は小さく親指をグッと立てると、ジャージのポケットから携帯電話を取り出し操作を始めた。
二人がこそこそとある準備をしている最中、沢村はテーブルの上に広がっている雑誌に視線を向ける。カラーページを見るなり、きれいっすね、と沢村は感想をこぼす。
準備ができたのか、二人はこくりと頷き合う。なまえと沢村の会話に割って入るように幸子は大きく咳払いをした。

「沢村、ちょっとしゃがんで」
「……は?」

突然の幸子の言葉に、沢村はぱちりと目を瞬く。唯は携帯電話をなまえと沢村に向けて黙っている。いいから! と幸子に促され沢村は言うとおりに動く。両膝をついてしゃがんでいると、片膝だけをつけ! と指摘を受け慌てて直す。何が始まるのかとなまえは頭の上にクエスチョンマークを並べ沢村と幸子を交互に見やる。

「じゃあ次。なまえの方を向く」

体の向きを二人ではなくなまえの方へやる。なまえと沢村の目線がぱちりとあったところで、じゃあ私の後に続けて同じこと言って、と幸子。沢村は首を縦に振った。

「"先輩のことが好きです、結婚してください"」
「先輩のことが好きです、結婚し――って、ちょっと待てコラァ!!」

途中まで復唱したものの、ハッと我に戻った沢村は相手が先輩だということも忘れ大声を上げた。ちっと幸子は舌打ちし、残念と唯はため息つき携帯電話を下げた。もう少しで良い画が取れると思ったのにと肩をすくめる。何気なく隣を一瞥すると、なまえはポカンと口を開けて固まっている。この後きっと、沢村ってばもう! とか言いつつ大笑いされるのがおちだろう。わけがわからん!! と沢村は目をつり上げると、御幸を探してくると残して足早に食堂から出て行った。

「もうちょっとで面白いものが出来上がったのになぁ」
「惜しかったね」

嵐が去った後、幸子と唯はあからさまに残念な色を浮かべた。二人がしようとしていたのは、テーブルの上に広がっている雑誌の写真と同じような構図を沢村となまえで再現をしようと試みたのだ。
だが、結果は残念なことに頓挫してしまった。完成した暁にはなまえに想いを寄せている同級生を中心に撮っていた動画を見せてやろうと思っていたのだが――。
幸子が大きく息を吐いた時、ちょいちょいと唯につつかれた。何だと視線だけをやると、唯はなまえを指差す。指先を追ってみると、なまえはテーブルの上に突っ伏していた。どんどんっとまるでリズムを刻むようにテーブルをたたいている。
何故かわからないが無性に面白いと感じたため、幸子は唯にあれも撮っておこうと言う。了解と返事したと同時に、唯は携帯電話を再び構え動画でなまえの様子を少しの間撮った。
この時、実はじわじわとこみ上げてきた嬉しさと恥ずかしさで一人もだえていたというのはなまえだけの秘密だ。

翌日、"沢村一世一代の告白(やらせ)"と"なまえの変な動き"と題された例の動画達は野球部で瞬く間に有名となり、先輩達からの物理的指導が沢村へ執行されたのはまた別の話である――。


まだ気付かないで、夢を見させて
例の動画がいつの間にか撮影をされていたことに気づいた翌日。野球部を騒がせる原因を作った二人になまえは声をかけた。

「幸子……唯……」
「どうした? もしかして流れ弾的なものに当たった?」
「まあ、冗談だってわかっててもこれだけの騒ぎだもんね。春乃もなんかフラフラした足取りでスーパーに買出しに出かけたし……ところで何かあったの?」
「あの動画、わたしに送ってください。切実にお願いします……!!」
「「(沢村のこと好きすぎるでしょう……)」」

愛子||171024
(title=確かに恋だった)