沢村と同性の子達は良いのだが、その輪の中に居一際眩しい輝きを放っている子が居た。沢村曰く、仲間――野球部での通称、沢村の彼女――である蒼月若菜だ。昨年見た時より更に可愛くきれいになっている。これは女の勘だが、若菜もきっと沢村のことを想っているに違いない。そうでなければ小まめに連絡を寄越したりはしないはずだ。
写真の中で笑っている若菜に目をやりつつ、可愛い……、と心の中で呟く。もし自分が沢村なら、きっと今頃、若菜を好きになっていただろう。
複雑な気持ちになったなまえは変なスタンプを倉持宛に連打し憂さ晴らしをする。すぐに既読となり、スタンプテロやめろ! と文章と、すぐ近くから直接怒られた。
大きくため息をつくと、あんたさっきから顔芸しすぎ、と一緒に休憩をとっている梅本幸子と夏川唯に突っ込まれる。お菓子食べますか? と吉川春乃からはチョコレートを勧められ、後輩の優しさにじーんと胸が熱くなった。チョコレートを一つもらうと、ジュースを買ってくると残し、小銭と携帯電話を片手に席を立った。
外に出て自販機へ向かう。歩いている途中、沢村は本当は若菜のことをどう想っているのだろう、と考える。
もし二人が同じ気持ちなら――。
ぴたりと歩みを止め、ふるふると頭を左右に振り、弱気になってどうすると自身に渇を入れた。軽く深呼吸し、再び歩を進めようとした時だった。
「なまえ先輩!」
嬉しいようで、今は会いたくはない人物の声。声のした方を見ると今から休憩に入るのか、汗を流した沢村が居た。傍へやってきた沢村をじど目で見やる。
「え、なんすか?」
何かを察したのか、沢村はきょとんとした色を浮かべた。じーっと沢村に目をやった後、唇をすぼめた。
「良いよね、沢村は。可愛い彼女から毎日連絡が来て!」
沢村の横を抜けて自販機へ足早に向かう。理解するのに少し時間がかかったのか、沢村の頭の上にはポンポンポンという音とともに黒い転々が三つほど浮かぶ。なまえが角を曲がった瞬間、ようやくわかったのか、はあ!? と声を荒らげて急いで沢村は後を追った。
「ちょ、先輩。彼女って若菜のことですか!?」
「そうよー、若菜ちゃんのこと! 因みに、昨日は写真が送られてきたそうね」
「写真のことなんで知って……!? いやそれより、いつも言ってますけどあいつは仲間ですってば!!」
ふーんと適当に相槌を打ち、自販機の前に立つと小銭を投入しジュースを購入する。聞いてます!? と問われ、聞いてる聞いてる、とジュースを取り出し口から出した。
いま最低なことをしてると反省するも、どうしても後に引けずにいた。冷たいジュースを手に持ったまま、違うからと続ける沢村にくるりと振り返り、それじゃあっ、と意を決して尋ねた。
「わたしと若菜ちゃんだったら、どっちが好き?」
唐突な、それでいてあまりにも直接的な質問に、沢村はパチパチと目を瞬く。ぽかんとした色をしている沢村とは逆に、なまえの顔はどんどん赤く染まっていく。
自分はなんてことを聞いてしまったのだろうと後悔するも後の祭りだ。
困ったように片手で後頭部をかいた沢村に、どんどんなまえはたえ切れなくなり俯いた。
「……ごめん、今の忘れて」
沢村が唇を開こうとしたのと同時に、そっと腕を伸ばして先を制した。後悔の念で押しつぶされそうになりながらも、急いでその場を去ろうとする。だがそれは、なまえの腕を取り引き止めた沢村により阻まれた。
「あいつは……若菜のことは……その、仲間として好きっていうか……」
少し困りつつも、けれどもしっかりと沢村は言葉を紡ぐ。
「なまえ先輩は……俺の傍に居てくれるだけで安心……します」
だから、と沢村は結んだ。
「これからも俺のこと、応援してください! なまえ先輩っ」
照れたように微笑む沢村に、なまえはポシュンと音を立てて再び赤くなる。ふるふると軽く震えた後、沢村! と呼んだ。
「こ、ここ、これからも応援してるからっ。頑張れ!!」
沢村の手に買ったばかりのジュースを握らせ、その場を逃げるようにして走り去った。
両頬を挟むようにして体温が急上昇していることを改めて確認する。同時に、表情が緩みそうになるのを必死に堪えた。今はまだこれで良い。このままで良いと、なまえは心の中で呟いた。
なまえが去った後、沢村は手の中にあるジュースに視線を落とす。一呼吸置いてからニッと歯を見せて笑った。その顔は、なまえと同じように真っ赤に染まっていた――。
あなたの笑顔はいつも突然で、私は息もできない
(この想い、いつかあなたに届きますように)
愛子||180326(title=確かに恋だった)