以前、仲の良い同級生達と買い物へ行った際に選んでもらった通りに服をコーディネイトしたのだが、なまえを待っている最中、服装は大丈夫かなど時折不安になり、入念に確認をした。
そういえば、今は何時かとポケットに入れていた携帯電話を取り出そうとした時、おーい、と遠くからなまえの声が聞こえた。声のした方に目をやるなり、沢村はぱちくりと大きく瞬いた。
息を弾ませ、なまえは手を振りながら小走りで傍へとやって来る。大人の女性らしい装いをしているなまえは、いつもと違う雰囲気を醸し出していた。軽くメイクもしているのか、可愛らしい顔なのに美しさも兼ね備えている。上目で覗き込んでくるなまえに、沢村は小さく息を呑んだ。
「おはよう、沢村。もしかして待った?」
「い、いや、全く! 俺もっ、さっき来たばかりですから!!」
本当は十分以上待っていたとは言えず、沢村は慌てて嘘を吐く。なまえと会い、朝のあの耐え難い上級生達のイジメのようなものが一瞬で払拭されたかのように思えた。
沢村? と首をかしげるなまえにハッと我に戻る。無意識にじっと見つめていたらしく、なまえはほんのりと頬を赤らめていた。
「えっと……その、変……かな?」
ちょいと服の端をつまみ、なまえは自身の服装を確認する。沢村は頭を横に何度も振り、全然!! と返した。
「変なんかじゃないです! なんていうか先輩……いつもと、違うっていうか……」
綺麗っス、と言ったつもりが最後の方は声が小さくなってしまい聞こえていたかはわからない。
「沢村も、いつもと違う感じがする。私服だからかな? なんだか大人っぽく見えるよ」
「そ、そっスか?」
沢村は照れたように片手で後頭部を掻いた。今日のなまえに褒められると、いつもよりとても嬉しかった。
「とりあえず、まずは駅前に行こっか。バスに乗ろうかとも考えたんだけど、歩いてもしれてる距離だし……」
さっそく歩き始めたなまえの後を、沢村は慌てて追いかける。隣に並ぶと、ふわりと良い香りが鼻腔をくすぐった。横目で、何かを話しているなまえを盗み見し、ふと心の中で思う。
自分は今、なまえとデートをしているのだな――と。
しかしすぐに軽く頭を振り、何考えてンだよ俺!! と口の中で叫んだ。
再びなまえに目を向ける。横顔は普段より大人びて見え、誰か知らない、けれどもとても美しい、まるで高嶺の花のような大人の女性と歩いているような気がした。なまえはこんなにも綺麗な人だっただろうかと考える。いつものなまえはすぐに御幸と倉持と一緒に自分をからかってくる。時には二人にからかわれ、子どものように怒ったり拗ねたりする。だが、仕事はしっかりとこなし、明るく誰にでも気兼ねなく話をする性格だからか、どこか憎めない存在だった。本人は気づいていないらしいが、部員やマネージャー達からとても人気がある。
そんななまえのことを、"ただの先輩"から"憧れの先輩"と意識が変化したのはいつだっただろうか。つい最近のことだったような気もするが、今の沢村にはすぐには答えられなかった。
一度視線を逸らし、再びなまえを一瞥すると同時に目が合った。
「沢村、聞いてた?」
「え、あ、何が?」
「もーっ、やっぱり聞いてなかった!」
顔をしかめるなまえに沢村は苦い色をした。ずっとなまえのことを考えていたとは口が裂けても言えず、すみません、と素直に謝ると、掻い摘んで今日の予定を話してくれた。
「まず駅前に着いたらね、ドラックストアに行きたいの」
「ドラックストア? 薬買うンですか?」
「ううん、化粧品とか欲しいの」
あとそのほか色々、と添えた後、それからね、となまえは続ける。
「その後はちょっと早いけどランチにしようかと思ってて……わたしのオススメのお店に行くつもりなんだけど、沢村は苦手なものとかある?」
「納豆以外ならなんでも平気っスよ!」
「あら残念。そのお店、納豆専門店」
「何ィッ!?」
「嘘よ嘘。ちゃんとしたカフェレストラン」
沢村すごい顔ー、となまえは大きく笑った。真剣に驚いた沢村は冗談だと知り、この人は……、と眉根を寄せる。
一通り笑われた後、沢村となまえは他愛の無い話に花を咲かせた。時折笑顔し、気づけば駅前へと着いていた。
愛子||161220