離れた場所からそわそわと十分以上前から待ち呆けている沢村の姿をじっと眺めていた。今は何時かと腕時計で時間を確認すると、約束の時間にはまだなっていない。もしかして緊張して時間を間違えているのか、それとも相手が遅れて居るのか――様々なことを考える。無性に苛立ちが募る中、声をかけてきたのは一緒に様子を伺っていた春市だった。

「倉持先輩、どうして僕達……隠れて栄純君を見て居ないといけないんですか?」
「沢村となまえのこと、気にならねぇのかよ?」
「気にならないと言えば嘘になりますけど……でも、これって何だか……」
「気になるなら堂々とすれば良いのにな」

春市の言いたいことを代弁するかのように、同じように沢村を眺めていた御幸は大きなあくびを一つこぼす。うるせえっ! と倉持は小声で返した。

「つーか、ゾノやノリはどうしたんだよ。昨日は何が何でも沢村となまえの買出しを阻止するとか言ってたのに……」

辺りを軽く見回す御幸に、まず答えたのは春市だった。二人の姿を想像しただけで胸が苦しくなり平常心を保てそうにないとのことで、春市に頭を下げて頼み込み、前園の代わりに様子を見に来たそうだ。春市の話を聞き、どんだけだよと御幸は突っ込む。
次に川上だが、朝食を食べ終えた後、前園と同じような症状となってしまった為、来れなくなったと倉持。御幸は再び、どんだけだよ! と小声でだが突っ込んだ。
前園と川上は一年の時から密かになまえに想いを寄せていた。もし、沢村となまえが寄り添い仲良くしている姿を見ると、二人はきっと卒倒してしまうかもしれない。今回は良い判断をしたのではないかと心の中で御幸は思っていた。
そんなこんなで倉持に二人の様子を見る為に集められたのは、御幸と春市、そして何故か今にも立ったまま寝てしまいそうな降谷だった。どうして降谷を誘ったのかと御幸が尋ねると、部屋に帰ってそのまま寝そうだったから、と倉持は平然とした色で答える。偶然巻き込まれてしまった降谷に、春市は心の中でどんまいと声をかけた。

「あの、今から帰って寝ても良いですか?」
「駄目だ――って、言ってるそばから帰ろうとすンな!」

寮へ踵を返そうとした降谷の肩を倉持はつかみ阻止する。
その時、聞きなれた声がした。
校門の方へ視線を戻すと、私服姿のなまえが沢村と合流した。大人の女性らしい装いをしているなまえは、いつもと違う雰囲気を醸し出しており、倉持は目をぱちぱちと瞬いた。
なまえはあんなに綺麗だったかと思う。隣に立って居るのは何故自分では無いのだろうと口の中で呟く。

「あっ、」

と声を上げたのは春市で、倉持は我に返った。

「栄純君となまえ先輩、移動するみたいです」

さっそく二人を追うぞと倉持は告げる。面倒くさいと不服の声を上げる御幸と降谷に、どうせお前等暇だろうが! と目を吊り上げる。声を上げたものの、これからの二人が気にはなっていたのか、仕方が無いと御幸は片手で軽く頭を掻く。降谷は無表情のまま、再び寮へ戻ろうとしたが、やはり倉持により阻止されそのままずるずると引きずられ始めた。
これは逃げられないと悟った春市は苦い笑みを浮かべた。一定の距離を保ちつつ、尚且つ、沢村となまえの姿を見失わないように後をつける――。
青道高校野球部の一大ミッションが今、幕を開けた。

愛子||161220