程なくして店のロゴの入ったビニール袋を片手になまえが出てきた。買ったものを鞄の中に入れつつ、お待たせと謝る。そんなに待ってはいないと告げると、良かったとなまえは安堵の息を吐いた。
鞄を閉めると、次の目的地であるオススメのカフェレストランへ行くと、沢村の腕を引っ張った。そんなに急がなくても良いのではないかと言うも、休日は開店時間前にも既に行列ができてしまうのだそうだ。なまえの話を聞き、どれだけ人気の店なんだよと沢村は心の中で驚いた。
しばらく歩くと、あそこ、となまえは噂の店を指さす。連れて来られた店の中を覗くと、そこそこ広く、シンプルだが落ち着いた雰囲気があった。テラス席もあり、お洒落な感じを遠目からでも醸し出している。
二人が店の前に着いた時、数人の行列が出来ていた。並んでいる人達の年齢層は幅広く人気店だとわかる。店員が店の前にランチメニューを記した看板を立て、おまたせしました、と開店を告げたところだった。二人は急いで最後尾に並ぶ。今日は運が良かったとなまえは笑顔した。
数分と経たずに二人は案内され店内へと入る。案内された場所は個室を思わせるような仕切りのある、二人掛けのテーブル席だった。仕切りは高く、立って覗かない限り席の様子はわからない。奥の席になまえは腰掛け、前の椅子に沢村が座る。店員は先にメニュー表を置くと一度テーブルから離れた。
メニュー表をテーブルの上に広げ、沢村はじっと目を凝らす。ランチメニューの値段は均一のようだが、種類がたくさんあり目移ろいしてしまう。
「なまえ先輩はどれにするか決めました?」
「日替わりにしようかなーって思ってる」
今日の日替わりランチは、チキンとふんだんの野菜を使ったヘルシーな料理のようだ。食べたいものが決まらず、沢村も同じものを注文することにした。
人数分のコップと水の入ったお洒落なボトル、そしておしぼりを運んできた店員にさっそく注文を伝える。店員は笑顔で返事をすると、メニュー表を手に持ち再びテーブルを離れた。
「さてと、沢村。大変なことが起こったわ」
「な、何が起こったんスか!?」
神妙な色を見せたなまえに沢村はごくりと息を呑む。実は、となまえは先を紡いだ。
「買い物、終わっちゃった」
「……は?」
ポカンと口を開けた沢村に、だーかーらー、となまえはいつもの調子で先程の言葉を復唱する。つまり、言っていた買出しは終わりこの後は何もすることがなくなった、とのことだった。
「じゃあ俺、何の為に先輩に付き合ってんスか!?」
「いやーなんか、ごめんね? よくよく考えると、欲しい物はさっきのドラックストアで全部買い終えちゃって。アハハ!」
「アハハ! じゃねぇ!!」
すかさずため口で突っ込みを入れた沢村を、まあまあ、となまえは宥める。
「そこで提案です!」
と、なまえはおもむろに鞄の中からあるものを取り出し、テーブルの上に並べた。
「水族館、行かない?」
「……水族館?」
こくりとなまえは頷く。テーブルの上に並べられたものは水族館の優待チケットだった。十分程電車に揺られなければならないが、駅前にある室内の水族館で、今は期間限定でアクアリウムも開催されているのだとなまえは説明する。
沢村はチケットを一枚手に取った。こちらへ出て来てからは、そういった場所にまったく縁がなかった。だからなまえの誘いはとても胸が躍った。
どうかな? となまえは首をかしげる。沢村はゆっくりと唇を開いた。
「……俺なんかと一緒で、良いんですか?」
何気なく尋ねると、なまえはふわりと微笑んだ。
「沢村だから、誘ってるの」
沢村は今度は目を見張った。それでは答えになっていないかと問うなまえに、慌てて何度か頭を横に振る。ドキドキと高鳴る心臓に、落ち着けと心の中で語りかける。小さく深呼吸をすると、ニッと歯を見せて笑顔した。
「水族館に連れて行ってください。なまえ先輩!」
元気よく提案を受け入れると、そう来なくちゃ! となまえはパチンと手を叩くと満面の笑みを浮かべた。
沢村だから誘った――その言葉を脳裏に思い返すだけで顔がにやけてしまいそうになる。ぐっとこらえ、沢村はほかの事を考えることにした。
水族館のことで盛り上がる二人のもとに、頼んでいたランチが運ばれてきた。
愛子||170120