沢村となまえがとある店に入るのを見届けた後、追いかけていた降谷達も同じ店に入った。運の良いことに二人の居るテーブルからは死角となる近くの席に案内される。話し声もしっかりと聞こえてくる場所で、倉持は密かにガッツポーズをしていた。
倉持と御幸が何やら小声で話をし始める。どうやら二人の話題のようだが、店員から渡されたメニュー表を広げるなり、降谷はある文字から目が離せず、声は遠くに聞こえた。
同じメニュー表を見ていた春市が、どれにするの? と問いかけてくる。降谷は黙ってメニュー表を指さした。
「カニ玉ランチ?」
「カニ玉を置いてるなんて、すごく良いお店だと思う」
「お店の評価はカニ玉で決まるの!?」
こくりと頷く降谷に春市は苦笑した。人数分のコップと水の入ったお洒落なボトル、おしぼりを運んできた店員に春市が注文を伝える。気になっているのはお前だけだ、そんなことはない、等と言い合っている倉持と御幸に、先輩達は何にするのかと春市は声をかける。二人は一度言い合うのを止め、メニュー表を一瞥すると日替わりランチと声を揃えた。日替わりランチ二つで、と春市は代わりに注文を伝える。店員は笑顔で返事をすると、メニュー表を手に持ち再びテーブルを離れた。
声は抑えているものの、折り合いはつかないのか、倉持と御幸は話し合いを続ける。そんな二人の様子を見て春市は小さく息を吐いた。
「面倒なら帰っても良いと思うけど」
「降谷君こそ、無理に付き合わなくても良いと思うよ」
そういう春市こそ無理に付き合わなくても良いのではないかと言うと、帰るに帰れなくて、と今度は苦い笑みを浮かべた。
「ここへ来る途中にゾノさんから連絡が来て、栄純君となまえ先輩のことを実況してくれって頼まれたんだ」
携帯電話を取り出し春市は前園から送られてきたメッセージを見せてくれた。二人の報告依頼を頼むという言葉と、頭を下げるスタンプが送られてきている。大変な役目を担ってしまった春市に、お疲れ様と降谷は労った。しかし、帰れない理由はそれだけではないのだと春市は続ける。
「栄純君となまえ先輩って、画になってるっていうか……なんだか、見守っていたいなって思うんだ」
降谷はきょとんとした色を浮かべつつも、ふとなまえと沢村に目を向ける。春市の言う通り、確かに二人の姿は画になっているように思えた。見守っていたいと考える気持ちもわからないでもない。なまえに気兼ねなく話しかけている沢村が、少し羨ましく感じた。
「水族館、行かない?」
と、なまえの声が聞こえた。瞬間、倉持と御幸は話すのを止める。どうやら耳を二人の会話に傾けてたようだった。水族館……、と降谷は呟く。
「白くま居るかな?」
「いや、それは動物園だと思うよ……」
春市の返答に降谷はあからさまに残念な表情をした。
「……俺なんかと一緒で、良いんですか?」
「沢村だから、誘ってるの」
ガタッと倉持は椅子を引いた。今にでもなまえと沢村の間に割って入りそうな勢いだったが、御幸におさえられ、落ち着けと宥められる。座りなおした倉持の顔は随分と引きつっており、つまりそれは最初から沢村を誘うつもりで居たんじゃねぇか、という不満が濃く出ていた。
ほどなくしてなまえの誘いを受け入れた沢村の声が聞こえた。
その瞬間、自分達も水族館行きが決まったと降谷は悟った。しかし、少し嬉しい気持ちも入り混じった。上京をして初めて動物達と間近にふれあえる場所に行ける。水族館でもペンギンや多少なりとも哺乳類系の動物は居るはずだ。
密かに心躍らせていると、店員が注文の品を運んできた。降谷の前には、カニ玉が並べられる。
水族館とカニ玉の二つを前に、降谷は一人ほくほくとしたオーラを醸し出していた。
愛子||170120