十分程電車で揺られた先に水族館はある。発車のベルが響き、開いていた扉が閉まると電車は動き始めた。にぎわう車内に、人多いなー、となまえは呟く。沢村も同意するようにこくんと頷いた。沢村は何気なくとある話題を振った。
「先輩って、御幸先輩と幼馴染……なんですよね?」
唐突な質問になまえはきょとんとした色を見せたが、その通りだと返すも、何故知っているのかと尋ねられる。倉持から聞いたのだと答えると、なんでも話すんだから、と渋らせた。しかしすぐに、彼女の若菜ちゃんには負けるよ、とニヤリと笑みを浮かべる。間髪入れずに、あいつとはそんな関係ではないと強く否定した。
「あいつは仲間で! ――って、なんで俺の話になってんスか!? なまえ先輩と御幸先輩のことを聞いてるのにっ」
「あははっ、ごめんごめん。沢村ってからかうと面白くて!」
「ぐ、ぐぬぬ……!」
猫目になり何とも言えない表情浮かべる沢村に、なまえは声を抑えつつ腹を抱えて笑った。しばらく笑った後、呼吸を整えるなり、一也とはねぇ、と唇を開いた。
「幼馴染というか、腐れ縁っていうか……まあ、そんな感じのやつ」
「そんな感じって……けど、なまえ先輩は御幸先輩を応援するために、わざわざ青道に来たんですよね?」
「え、誰がそんなこと言って……まさか、それも倉持が?」
「この話は御幸先輩」
あの眼鏡……! となまえは眉根を寄せ少し困った色を浮かべた。数秒ほど間を置いてから、そんなわけないでしょ、と否定する。ならどうして青道へ来たのかと尋ねると、一呼吸置いてからなまえはつぶやくように答えた。
「青道に来ればね、何かあるような気がしたの」
何かとはいったい、と首をかしげる沢村になまえはすっと顔を上げて微笑む。
「それにね、頑張ってる人を応援したいって思って。だからここへ来た、かな」
と結んだなまえに、それはやはり御幸を追いかけて来たというのでは、と考えたが口には出さなかった。そういうわけだから御幸を追いかけて来たわけではないと続けるなまえに、何故か胸の奥がずくりとした。初めて感じた、何とも言葉に出来難いものに軽く首をかしげる。
何故、こんな痛みを感じるのか――今の沢村には理解できなかった。
「――村……、沢村!」
ハッとなりなまえに視線を向けると、心配そうに眉を垂らしていた。大丈夫だと返そうとした時、ガタンと電車が大きく揺れた。瞬間、なまえの体はよろめき足はほつれる。沢村は急いでなまえの腕をつかみ、自身の腕の中へと引き寄せた。
上目で沢村を見ると、危ねェ〜、と呟きほっと安堵の息を吐く。
ふと、二人の目が合った。
しっかりと沢村に支えられているなまえはほんのりと頬を染め、大きく瞳を開けている。一方、沢村はしばらくじっとなまえを見つめていたかと思うと、静かに距離をとろうとした。しかし、すぐ後ろに手すりがあり退(さが)るにもさがれない。バッと手を上にあげ、沢村はなまえ以上に顔を赤くするなり、すみません!! と声を張って頭を下げた。
周りの視線が二人に集中し、なまえも突然のことに慌てる。謝らないでよ、と声をかけるも沢村はふるふると頭を横に振った。どうしようかとなまえが困惑していると、丁度、降りる駅に着いた。
ドアが開くとなまえは沢村の手をとり、駆け足で電車から出るなりこの場から急いで離れたくて改札まで走る。
なまえの後姿を見ながら、先程のことを思い出し、沢村の顔はさらに朱を帯びていた。そんな沢村と同じように、なまえの頬にも化粧ではない赤色がさしていた。だが、二人は互いにそれに気づかず走り続けた。
愛子||170126