水族館へ着くと、さっそく二人は優待チケットを使った。なかへ入ると、まるで別世界にでも来たような感じがする。知らずと気分は高まり、触れられるところは触れてまわり、時には沢村がおかしなリアクションをする為、なまえは腹を抱えて笑った。
入った直後にチケットカウンターで購入していたアトラクションのチケットを使い乗り物に乗る。前後に振り子のように動く大きな船のアトラクションに、落ちませんよね!? と沢村は緊張した面持ちで言う。そんな沢村の問いになまえはただただ笑い転げていた。
アトラクションを楽しんだ後は順路に沿って見てまわる。知らない魚等も展示されており、興味深く楽しんでまわった。
ライトアップされたクラゲがたくさん展示されているエリアへ入ると、丁度、手洗いマークが目に入った。

「なまえ先輩、ちょっとトイレに行って良いっスか?」
「いいよ。わたし、そこで待ってるから」

手を振るなまえに背を向け、沢村は足早に手洗い場へと向かった。
なまえは近くの壁際に立ち、鞄から携帯電話を取り出す。液晶画面に視線を落とし、口元をにやりとさせながら利き手の指で流れるように操作をする。
鼻歌を歌いつつ、ほどなくして携帯電話をもとの場所に仕舞うのとあわせてハンカチを取り出した。急いでくれたのか、手をぬらした状態で沢村が戻ってくる。取り出したハンカチを差し出すと、あざっす! と元気よく礼を言い沢村は受け取った。

「ねえ、沢村」
「なんスか?」

首をかしげながら、ハンカチをなまえに返す。唐突になまえは沢村の腕にぎゅっと抱きつく。

「こうしたら、恋人っぽく見えるかな?」
「はあっ!? こ、こ、恋人!?」
「そっ。恋人。カップル」
「なな、何言ってるンですか!?」
「……わたしとこうするのは、嫌?」

上目遣いに見つめてくるなまえに沢村は言葉に詰まった。恋人……、と口の中で呟き、ふと考える。
もし本当になまえとそんな関係になれたなら――……知らずと頬に熱は上った。前を向き、沢村は唇を開きぎこちなく答える。

「別に……嫌ってわけじゃ、ねぇけど……」

ゆっくりと歩き始めた沢村にあわせなまえも歩を進める。よかったと安堵の息を吐くと、ぽつりとこぼした。

「ありがと、沢村」
「別にお礼を言われる程のことじゃ、」
「照れる沢村、可愛いわよ。明日、幸子たちに話して笑ってやるー!」
「笑うって……ちょっ、なまえ先輩!?」

冗談だと笑うなまえに、ムムッと沢村は猫目になる。言葉を返そうとした時、あーっ!! となまえは声を上げた。

「ショー!!」
「……しょー?」
「イルカショー! 始まっちゃう!!」
「わっ。ちょっとなまえ先輩!?」

ぐっと腕を引き、なまえは沢村とともに駆け出す。なまえに視線をやり、まるで子どものようにはしゃぐ姿は部活の時によく見る光景だった。
今日一日、まるで別人のように感じていたが、やっと自分の知っているなまえが傍に居ると実感できた気がした。
沢村の表情には、知らずのうちに柔らかな笑みが浮かんだ。

愛子||170226