立ち話もあれだから、ということで、駅前近くのファミリーレストランで少し話をすることにした。時間が来れば降谷の祖父が駅へ迎えに来てくれるらしい。
なかには同じく人心地つく為に訪れているらしい数人の制服姿の学生の姿があった。恐らく、同じく青道高校を受験した者達だろう。二人掛けの席に案内され、向かい合って座る。ドリンクバーを注文し、降谷から飲み物のリクエストを聞く。鞄を床に置くと、なまえは飲み物をとりにいった。
飲み物の入ったコップを降谷に渡して席に着く。ありがとう、と礼を言い降谷は喉が渇いていたのかさっそく飲み始めた。なまえも飲み物を飲みつつ、前に座っている降谷に目をやる。
夢で会った彼と出会えた。
寸分たがわぬ容姿、声――すぐ傍に居るというだけで、何故か不思議と安心感があった。ふと、自分はこんな人間だったかと考える。

「……あの、」
「え、あ、なに?」

半分程飲み終えたところで降谷から声をかけられた。コップから唇を離し首をかしげる。互いの顔を見合う二人の間に、なんとも言い難い沈黙が訪れた。なまえは夢で、降谷は昨年の夏に会っただけ――といってもそれは目の前に居るなまえではないのだが――で、一応、初対面になる。声をかけたのは良いものの、いったい何を話せば良いのかと降谷は悩んでいるらしく、ふいと視線を逸らす。なまえもぱちぱちと目を瞬き、どうするべきかと頭を回転させた。

「なまえさん、」
「……ちょっと待って」

夢の中では感じなかった違和感に、先の言葉を制す。えっ? と一呼吸遅れて頭を傾けた降谷に、そのね、となまえは言った。

「"さん"付け、やめて欲しいのだけれど……」
「なんで?」
「なんでって、わたしと暁くん同い年だよね?」

降谷からぽくぽくという効果音がどこからか聞こえてきそうな気がしそうな程、微妙な間が生まれる。なまえの顔をじっと見つめ、数十秒経つと同時に、ポンッと手を打った。

「だから青道の制服じゃないんだ!」

平然とした色のまま斜め上のことを口にした降谷に、なまえは椅子からずり落ちそうになった。どうやら降谷はなまえを青道の生徒と勝手に勘違いをしていたらしい。服装からしてまず違うのだが、それについては突っ込まないことにした。急いで座りなおし、こほんと軽く咳払いをする。

「同い年なのに、わたしだけ"さん"付けなのも変でしょう?」

だから、となまえは少し恥ずかしそうに紡いだ。

「呼び捨てで呼んでもらえたら、嬉しいなぁ……って」

ちらっと覗き見ると、降谷は小さく笑っていた。そんな簡単ことかとでも言いたげな色で頷く。じゃあ改めて、と降谷は唇を開く。

「さっきはちゃんと、自己紹介してなかったから……降谷暁。よろしく」

そういえば、まだしっかりとはしていなかったかと考える。最初の話題がまさか自己紹介になるとは思いもよらず、なまえは自然と頬を緩ませる。

「みょうじなまえです。よろしくね、暁くん」

唐突に、それ、と降谷。なまえは首をかしげる。

「僕にもそれ、いらない」

それ? と聞くと、名前の後の、と降谷は続けた。

「"なまえ"って呼ぶから、僕も"暁"で良い」

つまり呼び捨てにしろということらしく、なまえは少し口ごもる。異性の友達は居るが、苗字以外を敬称なく呼ぶことをまだしたことがない。緊張して飲み物を一口含む。ちょっと落ち着いたところで静かに深呼吸し、意を決して降谷の望む通りにした。

「これからもその、よろしくね? ――暁」

名前を呼んだだけで、こんなにも温かい気持ちになるものなのかと不思議だった。なまえに呼ばれたことが嬉しいのか、降谷は満足気に表情を綻ばせると強かに首を立てに振った。

「こちらこそよろしく、なまえ」

例の"なまえ"も、こんな風に感じていたのだろうか。ただ降谷(この人)が傍に居るだけで幸せだ、と。
胸がきゅっと締め付けられるような、今まで味わったことのない甘い痛み。以前にも感じたことのある心地よさに、そして、もう一度逢えた喜びに精一杯の感謝と気持ちをこめて、満面の笑みを浮かべた。


遠かった君が、今近くで私を見てる
(これから先、君と過ごす時間はたくさん出来る……それを実感できただけで、とても幸せだ)

愛子||170918