今日は朝から母が用事で出かけている為、作り置きの朝食を食べるなり、スポーツバッグに荷物を詰め仕度もそこそこに、降谷は大きな橋の下へと来ていた。昨日の話を聞いてからというもの、どうしても居てもたってもいられなかったのだ。
橋の下へ来たものの、なまえの姿はない。まだ来ていないのかと思いつつ、荷物をいつもの場所に置くと、さっそく近場から探し始めた。
なまえは変な印のついた"手袋"を探していると言っていた。ふと、そういえばどんな色なのかを聞きそびれていたことに気づく。もっと詳しく聞いておけば良かったと降谷は後悔した。
しばらく探してみたが、ゴミが多くあっただけで手袋は見つからなかった。一旦、休憩をはさみ違う次は違う場所を探すことにした。玉のような汗が流れ、時折拭うも止め処なく流れる。しかし、降谷の苦労もむなしく、肝心の探し物は見つからなかった。
腹が鳴ったため、一度、荷物の置いてある場所にへ戻る。作ってくれていた弁当を取り出し、母特製のかに玉丼を味わいつつ、以前に約束していた物を取り出す。それは降谷が愛読している動物図鑑で、目の保養の為に昼食を食べながら広げた。
腹と心を満たし、軽く背伸びをする。休憩を終えるなり、降谷はきょろきょろと辺りを見まわし、あれ? と首をかしげた。
なまえが来ない。
いつもの時間を過ぎているのに、まだ姿を表さなかった。せっかく動物図鑑も持ってきたのに、今日は来ないのかなと考える。
だが、今日はまだ会えなくて良かったかもしれない。何故なら探し物はまだ見つかってはいないのだ。来るまでに見つけて驚かせてあげたい。よしっ、と声を出すと再び探し始めた。
なまえはどうして手袋を探しているのだろう。変な印の入ったもの、と言っていたが……印をつけるということは余程大切なのだろ。それほど大切なのであれば、誰かからの貰い物だろうか。家族、友人、それとも――。
最後に考えに、何故か胸がちくりと痛んだ。変なの、と降谷は口の中で呟くと、汗を拭い、草根を掻き分ける。しかし結局、手袋は見つからなかった。
そしてこの日、なまえも来ることはなかった。

愛子||170626