場所は毎年転々としていて、今年は久しぶりに河原だった。草が茂り、懐かしい匂いが鼻腔をくすぐる。夢だというのに、触れるもの、感じるもの、すべて本物のようで時折区別がつかなくなる。
ぼうっと突っ立っていてはいけない。探し物をしに此処へ来たのだ。確かに"あの人"は託すと言って、自身の宝物を預けてくれた。とてもとても大事なもので、失くしてはいけないと思い、蔵の中へ自分の宝物と一緒に丁寧に保管をしたのだ。
しかし、あの人が出て行ってしばらくして、何だか急に胸騒ぎを覚えて託されたものを見に行くと、あるはずの場所からなくなっていた。仕舞う場所を間違えたのか、それとも、以前に家族が蔵の手入れをした時に別のところへ移動をさせてしまったのか。帰ってきた時に笑顔でお帰りと迎え入れ、そして、預かったものを返してあげたい。
それからずっと探し物を続けている。一時は身体が鉛のように重く動くことが出来なくなってしまったが、ふと気づくと、また探し物を始めていた。
景色が変わっても、人の生活が移り行き変わっても――……。
「現実は小説より奇なりって、まさしくよねぇ」
リビングで携帯電話を触りながら、だらしのない格好で椅子に腰掛けて姉は呟くように言った。今日は祖母の命日で、朝から墓参りに出かけた。お昼は曽祖父――通称大じいちゃん――が奮発して豪華な会食を予約してくれた。家族みんなで料理に舌鼓を打っていると、唐突に大じいちゃんがある話を始めた。それは祖母のことで、祖母とはまったく血が繋がっては居らず本当の娘ではないとのことだった。
年相応という言葉が程遠い大じいちゃんは四捨五入をして九十歳なのだが、少し忘れっぽいというだけで後は現役並みに足腰も強く健康だ。口も達者で、祖父と父も大じいちゃんには敵わずいつも軽くいなされていた。
そんな大じいちゃんがいきなり変なことを言うものだから、ついにボケてしまったのか、と家族全員で思った。祖父も祖母の話は初耳だったのか目を丸くしたが、しかし、やさしく丁寧に大じいちゃんに接する。家族の顔色を見て察したのか、まだボケてはいないと大じいちゃんは怒りながらも続きを聞かせてくれた。
祖母の両親は既に亡くなっており、色々あって幼い頃に養子として引き取ったこと。祖母の両親――特に父親の方とは友人であり、今も大切なものを預かっているということ。大事なものとはなにかと姉が尋ねると、教えん、と一喝。何故だ、と大じいちゃんをのぞく全員が思ったのは言うまでもない。
だが、祖母の話を聞いてからというもの胸は高鳴っていた。好奇心と、そして別の、言葉では表現し難い何かの感情が渦を巻いている。突然、大じいちゃんはこちらを見るなりニカッと豪快に笑った。
「お前の名前は、ばあちゃんのお母さんの名前からもらったんだよ」
驚き目をぱちぱちと瞬くと、大じいちゃんは続ける。
「お前は本当にその人にそっくりだ」
生き写しだ、と言う大じいちゃんに、そこまでか? と家族はこちらを見て首をかしげた。祖母の母に似ているという言葉を口の中で復唱する。ふいにある話をしなくてはいけないような気がして、あのね、と例の夢のことを初めて家族に話した――。
先程、姉がぼやいたのは恐らく今日の昼のことだろう。勉強前に一服がてらに、冷蔵庫に入っていた姉のグレープグミをつまみつつ、適当に相槌を打つ。ずいっと顔を近づけてくるなり、姉はにやにやと笑みを浮かべる。
「で?」
「なに?」
「ここ最近、初めて夢に男の子が出てきたんでしょ?」
「……まあ」
グミを租借しながらそっけなく返す。
毎年見る夢だが、今年は大きな変化があった。それは、歳の近い男の子が出てきたのだ。あの人にそっくりな子で、ボールの投げ方や何気ない仕草まで似ているのだ。いてもたっても居れず咄嗟に声をかけたことが始まりで、ここ最近、男の子はずっと夢に出てきている。名前は聞いたはずなのだが、夢から覚めると忘れてしまい思い出すことができない。
「格好良い子なの?」
記憶を遡り思い出す。端整な顔立ちをしており、背は高く、大人しそうな感じだった。格好良いかと聞かれれば、文句なしに格好良い。だが素直に答えず、さあ? とはぐらかした。姉はにたりと笑ったが、ふうんと鼻を鳴らしただけだった。
グミを食べ終え軽く背伸びをする。夏休みの間は少しでも受験で有利になるよう、勉強をして知識を蓄えておかなくてはいけない。目指すは平均より上だ。
さて、とひざを叩きゴミを捨てる。リビングを出ようとした時、ちょっと、と姉に呼び止められた。
「あんた、グミ嫌いだったのにいつの間に食べれるようになったわけ?」
振り返り、もう一度、さあ? と微笑んではぐらかす。夢の中で男の子からもらったグミの味が忘れられないからとは姉には言えない。否、言いたくなかった。これは自分と男の子だけが知る秘密にしておきたい。
それから数日と経たず、夢はある日を境にぱったりと見なくなった。男の子と何かを約束した気がするのだが……それが一体どんな内容だったのか、目が覚めるなり思い出すことは出来なかった。
愛子||170822